ロボティクスの専門家である著者:中嶋秀朗氏と、「LITALICOワンダー」という子ども向けのロボット、プログラミング教室などを運営している、LITALICO代表取締役社長の長谷川 敦弥氏。それぞれ、現在、どのようにロボットとのかかわりを持っているのか、対談をしてもらった。(全4回)
取材・文/黒坂真由子、写真/宇佐見利明
カッコいい車椅子が欲しかった
中嶋:長谷川社長は、電動車椅子開発の支援もされているそうですが、いつ頃からされているのですか?
長谷川:電動車椅子「WHILL」に出資したのは5年ぐらい前です。全社員が集まるイベントでの話し合いがきっかけでした。私たちの会社のビジョンは、「障害のない社会をつくる」ということです。現在、移動すること、学ぶこと、コミュニケーションをとること、働くことなどに困難がある人達がいます。
そのような人達を「障害者」と定義しているのですが、その困難をなくすプロダクトやサービスが社会の中にあれば、彼らの「障害」はなくなる。つまり「障害者」ではなくなるのです。私は「障害」は人の側にあるのではなく、「社会の側」にあると考えています。
中嶋:なるほど。そしてそのためのプロダクトの一つが、「WHILL」という電動車椅子なのですね。
2024年には、国民の3人に1人が65歳以上になると推計されていることを考えると、歳をとっても自分で移動するためには、平らな道でなくても移動できる電動車椅子のような1人乗り車両は不可欠なのではないかと考えています。
それにしても、デザインがいいですね。研究用にWHILLの最新モデル「CR」を購入したんですよ。
長谷川:おお、ありがとうございます。実は最初は「ジェット車椅子」を作りたかったのです。カッコよくて、速い。10年前の電動車椅子は、カッコ悪いものばかりでしたからね。
この「Cモデル」の販売台数は、日本でもアメリカでも伸びています。たぶん「カッコいい」ことが理由の一つではないかと。
iPhoneのような、デザインと機能が両立した車椅子を
日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)、2017年度日本機械学会関西支部賞(研究賞)、共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。
長谷川:僕は電動車椅子に乗って、千葉県を旅したことがあります。レンタルしたものだったのですが、みすぼらしいものに乗っているような目で見られました。子どもも、ぱっと僕の方をみるのですが、すぐに目をそむけて「見なかったことにしよう」みたいな(笑)。
10年ほど前ですが、段差も2.5cmしか登れなくて、試しに車道に降りてみたらもう歩道には戻れなかった。段差が5cmほどあったからです。困っていると、何台かの車が止まって、降りてきた人達が僕を「よいしょ!」といって運んでくれました。日本っていい国ですよね。(笑)。
でも、これでは電動車椅子での移動は難が大きすぎると実感しました。その時に、いつか会社が大きくなったら、カッコよくて、段差を登れる車椅子を作りたいと強く思ったこともあり、出資という形で「WHILL」を応援しています。最新の「WHILL」は山道も登れます。今では5cmの段差は超えられるようになりました。
中嶋:デザインと機能は、普及のためにはどちらも必要ですね。
長谷川:車椅子ユーザーにどんな車椅子がほしいかを聞いたら、iPhoneみたいなのがほしいと。そうだよね。かっこいいのがいいよねと。
そのせいか、これまで「車椅子は見た目がちょっと…」と敬遠していた方達が「WHILL」を使ってくれています。「これだったら乗ってもいい」と思ってもらえるのがうれしいですね。