ドラッカー教授の主要著作のすべてを翻訳し、「日本における分身」と言われた上田惇生氏と、『経営者の条件』を40回読み、読書会を主宰し、ドラッカー学会監事を務める佐藤等氏。最強のタッグによる『実践するドラッカー【事業編】』。連載第3回は、マーケティングを取り上げる。どのように理解を深めていくかを佐藤等氏に聞く。
自然に「売れてしまう」状態を
つくるのがマーケティング
ドラッカーは『マネジメント【エッセンシャル版】』のなかでこのように述べている。
「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」
誰かが介して顧客のプッシュしなくとも、自然に「売れてしまう状態」をつくるのがマーケティングということだ。その製品なりサービスを目の当たりにした顧客に、「ああ、これが欲しかった」と思ってもらうことである。そうして始めて顧客は財布の口を開く。提示した顧客価値に対して対価を支払ってくれる。
そのためには、顧客が何を欲しているか、望んでいるか、何に価値を認めるかを知らなければならない。ドラッカーはまず「顧客に聞け」と言うが、同時に、顧客は必ずしも答えを知っていないという。うっすらと感じてはいても言葉で説明できなかったり、自分では気づいていなかったりするからだ。
また、今いる顧客だけでなく、「ノンカスタマー」に聞くことが重要だ。これまでずっと顧客ではなかった人がいるならば、それはなぜか。以前は顧客だったのに離れてしまったとすれば、それはなぜか。そこには、自社が提供できていない顧客価値を知るための大きなヒントがある。
本書『実践するドラッカー【事業編】』で用意したワークシートのうち、顧客を取り巻く状況に思いを馳せるためのエクササイズを取り上げよう。このシートで産業や業界全体から見ると、いつもと違う顧客の姿が見えてくる。