市場の評価=お金儲けは「悪」だ、という幻想

ちきりん そういえば、この間、私がブログでソニーのテレビ部門が8年間赤字だということに対して、「そんなところに優秀な技術者を8年間も置いておくことの無駄をよく考えてほしい」と書いたら、「技術者が金を生まないのが、何が悪いのか」というような意見が、わんさか来てびっくりしました。
自分が創りだしたものを市場が高く評価してくれて、それに対して十分な対価を払ってでも手に入れたいという人が世界中にたくさんいる、それがまさに価値創造なのだという感覚が全然ないですよね。

 消費者のニーズや評価に関係なく、独善的に一所懸命に技術開発に打ち込んで、自己満足な高技術テレビを実現すればそれでいいと思ってるんだろうかと驚きました。

藤 野英人(ふじの・ひでと)レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。 1966年富山県生まれ。90年早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、 5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立、現会社を創業し、現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売する スタイルである、直販ファンドの「ひふみ投信」を運用。ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。ひふみ投信  http://www.rheos.jp/ ツイッターアカウント@fu4

藤野 「技術」と「市場」が別モノだと思ってるんですね。お金儲けは悪だ、みたいな(笑)。

ちきりん お金儲けを悪だと考えるのは、特殊な思想の方々に洗脳されてますよね。ただ、そう思う一方で、今の若者たちがそういう洗脳に陥ってしまうのは、彼らだけの責任とも言えないかな、とも感じます。

 前回、年収300万円以下の人を対象にしたマーケットが大きくなっているという話がでました。今、仕事や労働にたいしてネガティブな意見を持つ人たちは、いままで一回も仕事で「面白かった」という経験がないままに30歳くらいになってしまってるんじゃないでしょうか。若者たちが「仕事による充足感」を体験できていない社会というのが、すごく問題だと思うんです。

藤野 そうなんですよ。社会や周囲の大人たちが悪いという面が多いにある。たとえば、僕は東京証券取引所でフェローとして証券教育に携わっているので、金融庁の人とか、日銀のエライ人とかと「今後の金融教育、どうしましょう」という話をすることがあるんです。その時にすごく違和感あるのは、「じゃあ、バーチャルマネー1億円で投資ゲームとかしましょう」というような話が、すぐに出てくることです。

ちきりん そうなんですか。

藤野 でも、そんなことをやったら、皆がよけいに投資から遠ざかってしまいますよね。なぜかというと投資ゲームなんか体験したら「株式投資は所詮はマネーゲームなんだ」と思っちゃうから。だから、そんな教育は教育じゃないし、絶対ダメですって言うんですけど。

 要するに、今、日本人の多くに足りないのは、「会社とは何か」ということについての正しい認識です。いい会社は便利で楽しくてワクワクさせてくれるものを生み出してくれる、つまり世の中を良くしてくれるんです。そこに資金を提供するのはいいことなんですよ、と。

 だから僕はセミナーでは、まずその話をします。「株式投資っていいことです。なぜかというと、会社を応援することだから」と。「会社を応援することで日本を良くすることができるんですよ」とかいうと、おじいさん、おばあさんは8割くらいうなずいている。一方、若者は半分くらいの人が首をひねっている。どうして若者が首をひねるかというと、会社を応援することが素敵に思えないから。彼らにとって会社というのは、素敵な場所に見えない。今の日本人の株嫌いというのは会社嫌いに由来していると思うんです。

ちきりん たしかに今の日本では、資本主義の基本とか、株式会社の社会的な意義とか、そういうことを教えられる機会が全くないですよね。