世界観と既存事業との衝突

福田:ただ実のところ、僕がやりたかったことは、ちょっと違う方向だったんです。
僕たちは、ポータルとして一つの世界観をISIZEで作り、大きなメディアをリクルートとして展開したいと考えていました。
しかし、それぞれの領域事業が強かったので、実現しませんでした。なので、今は領域ごとに、「ホットペッパー」、「リクナビ」、「じゃらんnet」と、個別にネットメディアがありますよね。
この時よく使ったのが「縦横」というキーワードです。つまり、横串で一つの世界を演出し大きなビジネスの機会を創るなかで、各事業の縦軸の深さをどこまで掘り下げられるのか。
現在は、領域ごとに展開してどんどん深掘りすることで、他社には絶対に真似できない価値を作っていけています。これを、うまくいったと評価もできますし、一方で、横串の世界観を実現できていれば、ヤフーやGoogleのような形で、現在のリクルートとは違うポジションを作れていたかもしれません。どちらが良かったかというのは、評価が難しいところです。

朝倉:たしかに、日本企業がそんなサービスを展開するのも見てみたかったですね。

福田:ただ、リクルートがネット起点ではないことは、良さでもあります。ネットにしても紙にしても、情報流通の仕組みの一つでしかありません。だから、どっちでもいいという発想が、リクルートにはあります。紙が一番伝わるのであれば紙がいいし、ネットのほうが親和性が高く、効率がいい場合にはネットがいい。
実は、今となってはネット起点ではないということは、リクルートの強みなのかもしれません。ここが、Googleとリクルートの最大の違いです。
ネット起点ではない強みを生かした一例が、飲食店向けのPOSレジアプリ「Airレジ」です。「ホトペッパー」という予約サイトにとどまらず、メディアをツールにしながら、顧客の経営効率化サービスまで事業として行うことで、他社との違いを作っています。こうしたビジネスは、ネット起点の発想では、できなかったでしょう。