本屋の価値を再定義せよーー「本を売ること」だけが価値ではない

堀江:実は、子会社で本屋さんを経営しているんですよ。SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSというおしゃれ本屋さんの先駆けですよね。10年以上やっていますもん。

ムーギー:本屋は結構、経営が厳しいところが多いですよね。それは経営的に成り立っているんですか。

堀江:経営的に、どうやったら本屋が成り立つのかをやってみたんです。いくつか施策があって。まず、ガラス張りの本屋さんがあって、その裏が月額制のシェアオフィスになっているんですね。座席10席ぐらいあって、編集者さんが主に借りているんです。本に囲まれて仕事がしたい。知的なスペースで仕事がしたいというニーズを満たしている。

ムーギー:なるほど。

堀江:あと、有名な建築家の方がデザインしてくれたスペースに、おしゃれな本、欲しくなるような本がバーッと並べてある。そのスペースがよく雑誌の取材で使われるんですよ。例えば女性誌の「ちょっと知的な私」みたいなコンセプトの時とかに、すごくよく使われていて。

ムーギー:シェアオフィスにくわえて、撮影場所としても活用しているんですね。

堀江:そう。午前中とかの使われていない時間帯は、撮影に使われているんですよ。すると、撮影料をもらえるじゃないですか。あとは、セミナーとかも運営するんです。

ムーギー:本屋の中でやると。

堀江:貸し会議室のような殺風景なとこでやるより、本に囲まれた中でやると、なんかテンション上がるわけですよ。特に、知的なイベントはね。客も喜ぶし、演者も喜ぶ。
 あとは、本屋のスペースを使って、最近スナックも始めて。だから、夜は本に囲まれた中でお酒が飲める。著者がママになったりすることもある。お酒が飲める本屋自体は、下北沢の本屋B&Bが先にやっていましたけどね。

ムーギー:本屋を使って、いろいろやれるんですね。

堀江:さらに、レンタルボックスもやっているんですよ。本屋さんで自分のアクセサリーを売りたいというニーズもある。他にも本に関連する雑貨を扱ったり。それらの複合技で、数年前に単年度黒字化したんですよ。

ムーギー:ブルー・オーシャン戦略のコンセプトの一つが、既存の業界のラインを引き直すというのがあるんです。今までは違う業界だろうなと思っていた要素を組み合わせて、新しい価値を出すのが重要なのですが、まさに堀江さんのやっていることはそれですね。

堀江:そう、まさに僕は本屋の根源的な価値が何かというのが分かったわけですよ。要は「街の知的なハブ」なんですよ。

ムーギー:「本を売る場所」ではないと。

堀江:知的な人のハブなんです。本を読まない人たちはいいんです。「本を読む比較的知的レベルの高い人たちが集まる場所である」と、本屋を再定義するわけです。そうすると、やるべきことが見えてくる。それをきちんとやっていくと、黒字化する。

ムーギー:一見するとレッド・オーシャンだった書店業界でも、本屋とは何かを再定義すれば、違う市場になるってことですね。

堀江:うん。もともとインターネットがなかった時代は、本屋は雑誌を置いておけば売れていた。その時期が長く続いたので、何も考えなくなっちゃったんですよ。同じパターンで、銭湯もそうだったんです。家風呂がない頃って、もう儲かって儲かってしょうがなかったんです。

ムーギー:なるほど。

堀江:そういう業界の人たちは、金はあるし、不動産は自社所有だし、ずっと何もやらないんです。

ムーギー:確かに。

堀江:よっぽどヤバい状況になった時に、「ヤバい、ヤバい」って言い出すんだけど、それなりに政治力があったり、守られた業界だったりするので、どんどん駄目になっていくわけですよ。
 本屋と似たような業界はいろいろあって、僕が本屋でやったやり方の水平展開は、いくらでもできると思うんですよね。

(後編へ続く)