宿泊市場に、「日本旅館」という新カテゴリーを創造する
――「寿司のグローバル化」からの教訓

ムーギー:ブルー・オーシャン戦略の骨子の一つに、通常はお客さんではなかった人たちを顧客化する「非顧客の顧客化」というのがあります。
 星のや東京は、都心のど真ん中にある日本旅館ですよね。旅館は通常、ビジネス顧客を相手にしていませんでしたが、都心に旅館をつくることで、その層を取り込めるようになった。この理解はあっていますか。

星野:ええ、合っています。そして、私は「日本旅館」というカテゴリーをつくっていきたいと考えています。
 ホテルには、ラグジュアリーホテル、ブティックホテル、カプセルホテル、ユースホステルなど、様々なカテゴリーがある。それに並ぶものとして、「日本旅館」というカテゴリーをつくりたいということです。

ムーギー:それはビジネスパーソン向けに、ということですか。

星野:ビジネスパーソンでも、レジャーでも、どちらでも構いません。日本旅館というカテゴリーができると、私たちが海外に出ていくチャンスが、掴みやすいものになると思っています。
 例えば寿司がまさにそうです。私がコーネル大学に留学していた1980年代は、アメリカ人は生魚をほとんど食べなかった。ところが、寿司は今や一つのカテゴリーになりました。すると「今晩、寿司食べに行こう」という会話がされるようになり、今はニューヨークやロサンゼルスで当時の同級生に会うと、みんな生魚を食べているのです。

ムーギー:私もしょっちゅういろんな国にいますが、生魚への抵抗は無くなっていますよね。

星野:ですから、日本旅館も同じ状況を目指すことができると思っています。日本に行った時だけに泊まれる特殊なものではなく、「今日はニューヨークに行くから日本旅館に泊まろう」と言われるようなカテゴリーをつくりたい。
 寿司屋に行って寿司を握ってくれているのが日本人だと、何となく安心感があります。同じように日本旅館を運営している運営会社が日本の会社であることは、私は非常に自然だと思っています。そのためにも私たちは、「日本旅館」をホテルのカテゴリーにしたいのです。
 都市で通用する日本旅館をつくろうというのが、星のや東京の本当の使命です。東京で実現すれば、それは世界の大都市に進出できるチャンスに繋がると思っています。

ムーギー:競争が1番、激しいところなんだからと。

星野:ええ。同時に見ていただきたいのは、世界中の大都市で、新しいホテルは毎年増えているということです。つまり、デベロッパーとか不動産会社は、新しいホテルをいずれにしても造るのです。そして、彼らはカテゴリーを探しています。

ムーギー:つまり「日本旅館という新しいカテゴリーのホテルをつくれば、他のホテルと差別化できる」と、彼らに思われたいということですね。

星野:そうです。そして、日本旅館を運営するために、日本の運営会社が世界へ出ていく。私は、今更ながら日本のホテル運営会社が世界に出て行くためには、これしかないと考えているのです。

ムーギー:今後の最大の野望は日本旅館のカテゴリー化ですか。

星野:はい。日本旅館を世界のホテルのカテゴリーにして、日本の運営会社が堂々と、その線路の上を走っていけるようにしたいと思っています。