社内より外部、日本よりグローバルに
目を向けさせるための目標設定
西山 2009年に公募増資と転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行とで約3500億円調達しましたが、その実施にあたりIRロードショー(主に機関投資家向けの説明会)のため、川村さんや、当時のCFOほか数人で世界中の機関投資家を訪問しました。私は、アジアとヨーロッパの一部の投資家訪問に同行しました。これだけ損をさせて、さらにダイリューション(希薄化)するっていうのか、と厳しい問答にさらされました。
途中で進捗を共有するために、アメリカ・ヨーロッパ・アジアの各チームで電話会議をしたときに、川村さんがしみじみ言ったんです。「私はこれまで発電設備を売ってきたが、それには保証書があって、瑕疵があったら期間中は保証するという約束をしていた。でも、株には保証書がないんだよね。だから、じゃあ何に基づいて買ってくれるかといえば信頼しかないんだ。株を売って初めてそれに気づいた」というようなことをですね。みんなしんみりと聞き入ってました。
朝倉 社内より外部、日本よりグローバル、という目標設定の重要性もありますし、それをこの巨大グループに浸透させるポイントとは。
西山 社内外のミドルマネジャーたちへの分かりやすさは大事ですよね。たとえば、大赤字をV字回復させる取り組みをしていた川村さんのころは、資本コストや資産効率より、まず赤字を止めることが最優先でした。でも、業績が少しよくなってきたら、やはりキャッシュに意識を向けてもらわないといけない。もちろん以前からキャッシュフローも社内指標として見てはいますけど、現場でその重要性をどのぐらい感じてもらえるか、です。
朝倉 現場では、何を指標に管理・評価されているんですか。
西山 現在のKPI(重要業績評価指標)は、調整後営業利益率とEBITマージン(支払金利前税引前利益率)、それから当期利益、キャッシュフロー(CF)、ROAです。このうち、調整後営業利益率の分解指標として売上総利益率と販売費・一般管理費率、CFの分解指標としてCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を使っています。キャッシュフロー改善を経理が繰り返し言い続けるのは当然ですが、「また経理が言ってきた」と当事者意識を持ってもらいにくいので、製造担当役員や営業トップなどサプライチェーンの意思決定者にCF責任者になってもらいCCCをキャッシュフローのオペレーショナルな指標の中心に据えました。相当意識は高まっていますが、経理以外の人に責任を担ってもらうことに意味があります。
朝倉 業績の回復に伴って、社内の意識も変わってきておられるようですが、リーマンショック時の挫折経験がその変革のきっかけになったように外部からは見えます。社内の感覚としてはどうですか。
西山 それはありますね。複数の事業がひどい事態に陥りましたし、そこそこだった事業も投資を絞らざるを得ませんでしたから。ただ、残念ながら今の執行役には、先ほどお話した針のむしろだったときの増資のロードショー経験者は私以外にいないんです。だから今、ビジネスユニット(BU)ごとに戦略を説明し、資本市場の対話を行う「Hitachi IR Day」は、なおさら重要な機会だと思っています。参加されるのは日本のアナリストの方が大半だから、皆さん礼儀正しいですけどね(笑)。(後編に続く)