「死亡率が下がった」というさまざまな研究結果
では、ビタミンD欠乏は、死亡率にはっきりした影響をおよぼすのか?
ビタミンDは長生きに役立つだろうか?
『アーカイブズ・オブ・インターナル・メディシン』に2008年に発表された、じつに興味深い研究は、「ビタミンD3が欠乏している人の死亡率は、ビタミンDの血中濃度が高い人の2倍も高い」と断定した。
にわかに信じがたい結論だが、オーストリアのグラーツ医科大学で行われた研究も、これを裏づけている。
この研究では心臓造影検査を受ける予定の患者約3200人(平均年齢62歳)から血液サンプルを収集した。8年後、患者の463人が亡くなっていたが、うち307人はビタミンD3濃度が最低の群に属していた。ただしこの研究もほとんどの研究と同様、「死亡率との因果関係は特定できなかった」。
この結果をさらに裏づけたのが、ソルトレークシティのインターマウンテン医療センターが報告した、2009年の大規模研究だ。参加者約2万8000人をビタミンD濃度で3つの群に分け、2年間追跡した。追跡期間中、ビタミンD3濃度が最も低い群は、正常なレベルを維持した群に比べて、死亡するか脳卒中になる確率が77%高く、冠動脈性心疾患を発症する確率が50%近く高かった。
死亡率とビタミンDとの関係を明らかにするために、ビタミンD濃度と早期死亡率を調べた史上最大規模の研究に、14ヵ国の平均年齢55歳の参加者56万6583人を対象とした32件の研究のシステマティック・レビュー〔既存論文を系統的な方法を用いて網羅的に収集、選択し、批判的吟味を行うレビュー手法〕がある。
カリフォルニア大学サンディエゴ校で行われ、公衆衛生学の専門誌『アメリカン・ジャーナル・オブ・パブリック・ヘルス』で2014年に発表されたこの研究では、ビタミンD濃度が低い人たちは、濃度が正常または高い人たちに比べて早期死亡率が2倍近くも高かった。
この驚くべき結果には当然ほかの多くの要因も作用していると考えられ、一部の研究はこの結論を支持しない。
たとえば9万4138人を対象とした50件の検査データを収集、分析した2014年のコクラン・レビューは、「ビタミンD3は、主に介護施設に入居または利用している女性高齢者の死亡率を下げる効果があるように思われる」一方で、ビタミンD2は死亡率に影響がなかったと報告している。それでもこれらの研究は、健康的なビタミンD濃度を維持しようと人々に思わせるほどには説得力がある。
(本原稿は書籍『ハーバード医学教授が教える健康の正解』からの抜粋です。本書では適切なビタミンDの取り方のほか、食べ物・飲み物・習慣の「正解」について、さまざまに紹介しています)