テレビからネットに雑誌、書籍まで、世の中にはまことしやかな「健康情報」が、日々次から次に流れている。コレを食べると「やせる」「血液さらさらになる」などとテレビで放送されると、翌日にはスーパーからその食品が消えるといったことが繰り返されている。
だが、実際にはその情報の信頼度はバラバラで、何の科学的証拠もないものが「とても健康にいい」と喧伝されていることも少なくない。
では、いったい何を信じればいいのかと思ってしまう人も多いのではないだろうか。
そこで、ハーバードメディカルスクールの教授であり医師としても活躍する著者が、数十万人を何十年も追った大規模研究など、信頼性の高い膨大な研究の網羅的な分析によって明らかになったことを集め、「これだけは間違いなく『いい』と断言できる」という食物・習慣を抽出した。その内容を一冊にまとめたのが『ハーバード医学教授が教える健康の正解』だ。ここでは同書から血圧とビタミンDについて論じた部分を特別に公開する。
ビタミンDは減塩よりも「血圧」を下げる効果が大きい
ビタミンDと死亡率の関連性を調べた最も包括的な疫学研究によって、低い血中ビタミンD濃度が、心臓疾患などによる早期死亡に直接関連していることが明らかになった。
2012年に終了したコペンハーゲン市心臓研究は、男女1万人以上を30年間追跡して、健康状態の変化をくわしく調べた。
追跡期間中に死亡した人は6747人で、「血中ビタミンD濃度が低い群と高い群は、罹患率と死亡率に大きなちがいがあった。……最も驚くべきことに、ビタミンD濃度が最も低い群は、虚血性心疾患または心筋梗塞(心臓発作)で死亡する確率が81%高かった」という。
また、この驚くべき結果の確証を得るために、17件の同様の研究を分析した結果、「ビタミンD濃度の低下が、心臓疾患の罹患率と死亡率の上昇に直接関連していることが、ほぼすべての研究で示された」と、論文著者のボーエ・G・ノルデストガード博士は述べている。
この関連性をさらに裏づけるエビデンスが、2014年のアメリカ心臓学会年次科学セッションで発表された。冠動脈造影検査(心臓疾患の病態を可視化する検査)を受ける患者の70%以上に、ビタミンD欠乏が見られたというのだ。
心臓疾患の主な原因のひとつに高血圧があるが、糖尿病・内分泌学の専門誌『ランセット・ダイアビーティス・アンド・エンドクリノロジー』の電子版に掲載された2014年の研究で、低いビタミンD濃度が高血圧に直接関連していることが示された。実際ほかの研究でも、減塩よりもビタミンDを補充するほうが、血圧を下げる効果が大きいことが示されている。
ヨーロッパ10ヵ国とアメリカ、オーストラリアの研究者によるメタアナリシスは、ヨーロッパ人を祖先にもつ男女15万5000人以上を対象とした35件の研究のデータを分析した結果、ビタミンD濃度が10%上昇するごとに、高血圧の発症リスクが8.1%低下したと結論づけた。
研究代表者の南オーストラリア大学教授エリナ・ヒッポネンは、「抗高血圧薬のコストや副作用を考えると、ビタミンDによって血圧を下げ、高血圧のリスクを軽減できる可能性はとても魅力的だ」と述べる。
また論文の筆頭著者カラニ・S・ビマレスワランは、「ビタミンDのサプリメントや栄養強化食品によって一部の心臓疾患を予防できることを、本研究は強く示唆しています」と、2013年のヨーロッパ人類遺伝学会で語っている。(中略)