ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、アップルvsサムスン訴訟を手がけるなど、世界的に注目を集めるビジネスの最前線で戦っているライアン弁護士の交渉の「奥義」を公開する。

 強者と対等に交渉する鉄則

 まず「交渉決裂ライン」を決める。
 そして、この一線は絶対に譲らない。

 この覚悟を決めることが交渉の第一歩である。ただし、この覚悟は単なる精神論ではない。重要なのは、その交渉に"一点張り”しないことだ。繰り返すが、交渉は「自分の目的」を達成する手段にすぎない。もしも、これから行う交渉が決裂したとしても、他の手段で「自分の目的」を達成できればいいのだ。

 だから、交渉に臨む前に、プランA、プランB、プランCと複数の選択肢を用意しておくことが重要だ。これができれば、目の前の交渉が決裂することをむやみに恐れる必要がなくなる。心に余裕が生まれ、覚悟も決まる。交渉が厳しい局面を迎えても、冷静に対応し続けることができるのだ。

 連載第2回で紹介した日本人実業家もそうだった。
 彼は、激しく競合する企業から合併の打診を受けた。安値競争でお互いに傷ついているから、その提案は"渡りに船”だった。しかし、その市場では、日本人実業家がシェアトップだったとはいえ、相手は世界的な大資本。強者を相手にする合併交渉だった。

 そこで、彼は、交渉に入る前に、「51%以上の株式保有」などの「交渉決裂ライン」を明確にするとともに、交渉が決裂した場合の選択肢も用意した。ひとつは、単独で戦い抜くという選択肢。もうひとつは、別の企業と合併するという選択肢である。

 前者を選択した場合には、苦しい戦いは強いられるが、シェアトップ企業の強みを活かせば生き残れると判断。後者については、候補となる企業と接触をして感触を確認していた。つまり、大資本との合併をするのがベストの選択肢ではあったが、第2、第3の選択肢でも「自分の目的」は達成できる状態を確保したうえで、交渉に臨んだわけだ。

 だからこそ、彼は、大資本とも対等な交渉ができた。そして、どうしても「51%以上の株式保有」が認められないことがはっきりしたときに、決然と「交渉決裂カード」を切ることができたのだ。