ブロックチェーン国家? 紙幣は消えた?
「未来国家」エストニアの本当の姿とは
欧州バルト三国の一国、人口わずか約130万人しかいないエストニアがいま、日本から、いや世界から注目を集めている。なぜなら、1991年に旧ソビエト連邦から独立した後に、IT立国を掲げて見事「電子政府」を実現させた国であるからだ。
もっとも、歴史が好きな人であれば、1989年に独立運動として行われた「人間の鎖」を思い出すかもしれない。大相撲が好きな人であれば、エストニア出身力士の把瑠都(ばると)凱斗(かいと)さんを思い出すかもしれない。
とはいえ、多くの日本人からすれば、馴染みはない。人口は福岡市と同程度、面積も九州7県と同程度に過ぎない。それなのに、そんな小国から、電子政府だけでなく、人工知能(AI)やブロックチェーン、無人ロボット、仮想通貨、スタートアップ・エコシステム、ゲノムなど、注目のキーワードが次々と出てくる。
実際、日本では次のような噂を耳にした。
・街を無人ロボットが走っている?
・ビットコイン以前にブロックチェーンを開発した?
・紙幣は消えて仮想通貨が流通している?
・国に行かなくてもビザ(査証)が取得できる?
・国が国民の遺伝子情報を大量に集めている?
・すべての学校でプログラミング授業が導入された?
・小学校でブロックチェーン技術を教えている?
・電子政府化で税理士や会計士がいなくなった?
果たしてこれらは本当なのだろうか。エストニアの情報はまだ少なく、日本では手に入りづらい。そこで2018年5月、現地エストニアに向かった。
結論として、これらの情報には正しかったものも、誤っていたものもある。だが、現場に行ったからこそ、より本質的な情報が見えてきた。さらに、われわれ日本が学ぶべき真のポイントもわかったのだ。
本書は、経済誌『週刊ダイヤモンド』の連載「孫家の教え」(2017年4月〜2018年11月)のスピンアウト企画である。連載を通じて孫泰蔵さんがエストニアへの関心を高めていることを知った筆者が、孫さん率いるミスルトウ(Mistletoe)チームの協力を得て、現地を取材。エストニアに詳しい日本人や関係者への取材も重ねて、多数の文献や資料を基にその内実をまとめたものである。