100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「クローズアップ現代+」、日本テレビ系「スッキリ!」、フジテレビ系「ノンストップ!」など各種メディア引っ張りだこ状態の株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。
近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到。続々大重版が決まり、発売3ヵ月あまりで現在3万5000部と、異例の売れ行きとなっている。
本記事では、これからの年末年始にクレームが激増する理由と、対処法の原則を特別公開する。(構成:今野良介)
なぜ、年末年始にクレームが増えるのか?
通常業務と同じように、クレーム対応にも、「繁忙期」と「閑散期」があります。私は警察官から民間に転身して以来、20年以上クレーム対応や危機管理に携わっていますが、その経験を踏まえていえば、たしかにクレームが発生しやすい時期と、そうでない時期があるのです。
そのなかで、年末年始はとくにクレームが多発する時期です。歳末セールや福袋の売り出しで、デパートや量販店、専門店などは大賑わい。飲食店も忘年会と新年会で満席。さらに、交通機関は帰省ラッシュで大混雑。街に人があふれ、年末年始特有の高揚感が漂うなかで、クレームが大量発生しているのです。
なぜ、年末年始はクレームが発生しやすいのだと思われますか?
呆れてこう言い返されるかもしれません。
「いやいやあたりまえでしょ。どこもセールとかで混雑している時期なのだから、トラブルが増えるのは不思議じゃない。クレームも起きないはずがないでしょうよ」
たしかに、その通りです。
混雑した店内、待ち時間にイライラするお客様、タガがはずれた酔っぱらい……。ちょっと考えるだけでも、クレームやトラブルが起きる素地は整っています。
しかし、年末年始にクレームが多発する原因は、それだけはないのです。
華やいだ雰囲気の陰で、人知れず不満を溜め込んでいる人々からも、クレームは持ち込まれるのです。
たとえば、次の事例をご覧ください。
---------高級ブランドの例-----------
高級ブランドのファッション・小物を扱う専門店に20代と思われる男性客が訪れた。店内にはクリスマスツリーが飾られ、ポピュラーソングが流れている。
「お客様、何かお探しですか?」
スーツに身を包んだ女性店員が男性客に声をかけた。しかし、男性客は店員を一目見ただけで、黙ったままだ。
女性店員は、見慣れない男性客の無愛想な態度に不安を覚えた。通常、こうしたタイプのお客様はこの店に来店しない体。よく見ると、ファッションに無頓着な服装に見える。
それでも女性店員は、いつものように男性客のそばに立って、相手からのリクエストを待っていた。すると、男性客の口元が少し開いた。いや、開いたように見えた。
店員は、男性客に近寄って耳を傾けた。男性客は店員の耳元でささやいた。
「なんか、文句あんのか?」
店員は、なにがなんだかわからなくなった。「え?」としか声が出ない。周囲の来店客も、その不穏な様子をいぶかしげに見ている。
店員は思わず、その場を立ち去ろうとした。そのとき、男性客の右肩にぶつかってしまった。
「ばかやろう! 店長を呼んでこい!」
男性客の怒鳴り声が店内に響いた。
(了)
これは、アルバイト帰りの男性が、ふらっと立ち寄ったブティックで店員に難癖をつけたケースです。男性の目的ははっきりせず、単なる憂さ晴らしと考えるのが妥当でしょう。しかし、女性店員からすれば、たまったものでありません。
クレームが多発する時期には、1つの特徴があります。
それは、人々に「格差意識」を意識させるタイミングだということです。
年末年始だけでなくても、たとえば、ゴールデンウィークやお盆休みなどもクレームが急増します。
なぜなら、「旅行に行こう」「家族団らんを楽しもう」と世間が華やいでいるとき、自分の境遇や孤独を思い知らされるように感じる人がいるからです。そして、日頃の鬱積をクレームで発散するのです。
クレームの原因はさまざまですが、年末年始には、こうした類いのクレームもあることを念頭に置いて対応することが必要でしょう。
初期対応で「謝って済む問題」に持ち込む
クレームの多発が予想されるときは、まず最初に、クレーム対応の手順を確認しておくことが必要です。
クレームが増えれば、それだけ担当者の負担も大きくなりますが、「忙しいから、勘弁して」といった思いは胸にしまって、いつもどおり落ち着いて対応することが大切です。
とくに、初期対応には細心の注意を払わなくてはなりません。ただでさえ忙しいのに、初期対応でミスをして二次クレームに発展すると、現場は大混乱します。
初期対応を失敗しないためには、3つの原則があります。
(1)相手を待たせないよう、スピーディに行動する
(2)相手の不満を見逃さないよう、視界を大きく広げておく
(2)担当者としての責任を自覚し、自分が率先して相手と向き合う
初期対応では、こうした原則を踏まえたうえで、「謝って済む問題」に持ち込むのが、最も理想的な形です。
そのためには、初期段階においては、「性善説」でお客様に対応する必要があります。始めから相手をクレーマー扱いせず、大切なお客様として接します。
具体的には、「お詫び」と「共感・傾聴」を意識します。苦情を訴えるお客様には反論せず、まずは相手に不快な思いをさせてしまったことをお詫びするのです。そのうえで、相手の話にあいづちを打ちながら、まずは相手の言い分を聞きます。
このとき、「ですから」「だって」「でも」という「D言葉」は禁句。
「失礼しました」「承知しました」「すみません」といった「S言葉」で応じます。
ただし、ここで注意してほしいことがあります。先に紹介した事例のように、クレームが多発するときには、日頃とは違ったタイプのクレーマーと遭遇する可能性もあるからです。突然、大声で怒鳴られたり、「ネットで流すぞ」などと脅迫めいた言葉を浴びせられたりしてパニックになってしまうと、おしまいです。
店舗や飲食店では、店頭で接客するスタッフに「クレーム対応マニュアル」を渡しているところも多いと思います。しかし、そこに書かれたセリフを丸暗記するだけでは、そこに書かれていないクレーマーを目の前にしたとき、頭が真っ白になってしまうかもしれません。
『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』は、ただのマニュアルではありません。クレーマーの終わりなき要求を「断ち切る」ための、対面・メール・電話あらゆる場面に対応した全方位型の完全マニュアルです。
最新のクレーム事例を40以上紹介しながら、正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、23の技術を余すところなく紹介しています。
ぜひ、年末年始の現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求し、売上につなげてください。