ライフワークの原動力は、
「贈与」にある

原尻淳一(はらじり・じゅんいち)
Harajiri Marketing Design 代表取締役龍谷大学経済学部 客員教授
1972年埼玉県生まれ。大手広告代理店入社し、主に飲料のブランドマーケティング業務に携わる。その後、エイベックスグループに転職。多くのアーティストのマーケティング戦略、映画「レッドクリフ」の宣伝戦略立案、アニメ「ONE PIECE」のDVD事業戦略立案を行い、大ヒットに導いた。現在はマーケティングコンサルタントとして新規事業立案に取り組むことが多くなっている。また大学教授として知の技法と実践的マーケティングの講義を行っている。著書に『IDEA HACKS!』等、東洋経済ハックシリーズ。近著では『ビジュアル マーケティング・フレームワーク』(日経文庫)がある。日経ビジネススクール講師。環境省や厚生労働省の委員等も歴任している。

一般的に人が形成するコミュニティの中では、単なる金銭上の契約を超えて「あの人にはお世話になっているから、この頂き物をおすそ分けしよう」とか「お中元やお歳暮を贈ろう」とか、「お金では支払えないけれど、助けてあげたいからボランティア活動でお手伝いしよう」など、各種各様、さまざまな形をした「プレゼント」が行き交っています。

コミュニティ内における、貨幣に換算できない人間の活動やモノなどを交換する経済を「贈与経済」と呼びます。

贈与経済の有効性は、親族や友人関係のようなヨコのつながりが強いコミュニティ内だけではなく、会社のような貨幣経済を回している組織においても同じです(どんな社会にもタテとヨコのロジックは共存していますから)。
人と人との関係性の環があれば、そこには贈与互酬の習慣が存在しますから、誰もが贈与経済についてはいくばくかの経験があるでしょう。

僕らはライフワークの原動力は、この「贈与」にある、と考えています。
貨幣的報酬よりも、この世界をより良いものに変えるために自分のアイデアやチカラを「贈与」することがライフワークを追い求める根底にある。
自分が好きなことを追いかけると言いつつ、それは自分だけのためではありません。

市場経済、貨幣経済は基本的に競争の原理で成り立っています。
競争原理に従って、貨幣経済は弱いものから貨幣を奪いますし、競争はすべてを奪うまで続こうとします。

そうしたライスワークの基本的な性質を把握した上で、いま一度意識したいのが「共有(シェア)」の概念です。
共に生き、共に分かち合う経験は、競争社会/貨幣経済に生きる僕らの記憶に深く残ります。