子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を集めた新刊『子どもが幸せになることば』が、発売前から注目を集めています。

著者は、共働きで4人の子を育てる医師・臨床心理士で、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けてきた田中茂樹氏。親が「つい、言ってしまいがちな小言」を「子どもを信じることば」に変換すると、親も子もラクになれるという、心理学に基づいた「言葉がけ」の育児書です。

この記事では、いわゆる「自傷行為」をする子どもが、その行為を通して親に発している「メッセージ」について紹介します。(構成:編集部/今野良介)

ストレートに「とてもつらい、苦しい」と言うことができない

苦しいとき、つらいときに子どもが頼るのは、親です。

幼いときには、親にSOSを出すのは簡単です。赤ん坊であれば、ためらいなく大声で泣くことができます。ところが、だんだんと自分の心が育ってきて、状況を判断して辛抱できるようになると、SOSは出されなくなってきます。これは子どもが成長している証拠でもあります。

たとえば、予防接種でも、歯科検診でも、3歳、4歳、5歳と年齢が上がれば、子どもの態度も頼もしく変化していきます。いつまでも「ママ~!」と泣いているわけにはいきません。子どもは誇り高くあろうとする存在だと思います。

辛抱強いことは長所でもあるけれど、必要なときにSOSが出せないこと、しんどいときに「助けて」というのが苦手なことはまた、弱点でもあります。そのバランスを、親は意識してあげたいものです。

「助けて」と言えない場合、子どもは別の形でSOSを出します。

忘れ物をする、友だちにいじわるをする、宿題をしない、朝起きない、爪噛み、チック、登校を渋る……。これらは安全なほうだと思います。

よく誤解があるのですが、そういうことを子どもは「わざと」やっているわけではないのです。

ストレートに「いまとてもつらい、苦しい」と言うことができない。それで親に、ときには先生や周囲の信頼できる大人に伝わるような行動が「選ばれて」発信されているのだと、私は思います。

いわゆる「自傷行為」も、辛抱強い子どもがなかなか出せないSOSを必死で発しているという要素があるでしょう。

たとえば、自分で髪の毛を抜く行為、いわゆる「抜毛症」は、しばしば相談を受ける「問題」です。

子どもが自分で髪の毛を抜いているのは、親にとってはかなりショックなことです。「なぜそんなことをするのか」と叱りたくなるのも、親としては当然です。

でも、そのような子の多くは、辛抱強い子であり、親に迷惑や心配をかけまいと自分でなんとかしようとがんばる子なのです。学校で仲間はずれなどのいじめにあっていても、登校を続けているようなケースがほとんどでした。

髪の毛を抜くという行為には、そのような形で「自分はいま、とても苦しい」ということを親に伝えようとしている側面があること、子どもから親に向けた大切なSOSだということを、面接ではまずしっかりと説明します。

机の上に置いてあったり、ゴミ箱の見えやすいところに捨ててあったり。親が見つけやすいところに抜かれた毛が置かれていることが多いのも、子どもは意識していないかもしれませんが、親に向けたメッセージであると考えられる理由です。

逆に考えると、抜かれた髪の毛が上手に隠されているような場合は、見つけやすいところにあるよりも、深刻な状況だと言えるかもしれません。

髪を抜くという行為は、「やめさせなければならない困った行動」ではないのです。子どもが自分を守るために必死で生み出した行為であって、子どもにとって大切な行動です。そこを親が理解すること、受け入れることが、大切な第一歩になると、私は考えています。

もしもSOSが別の形で、たとえば家出や援助交際などの非行、リストカットや過剰薬物摂取、拒食症などの形で出されたとしたら、子どもの人生や身体へのダメージも親のストレスも、ずっと大きくなります。抜毛を「選んでくれた」子どものやさしさ、賢さ、強さを、親が受け止めることは大事です。

その意味では、子どもも親を信じているのです。

「自分の親なら、このメッセージを受け止めてくれるはずだ」と。

親がカウンセリングに通い始めて、子どもの苦しい心に気がついて、受け入れるように接することで、子どもの怒りや甘えが出てくることがあります。

これは、良い兆候です。やさしかった子が、これまでの不満をぶちまけるようになるかもしれません。「おまえのせいだ!」と親に向かって怒るかもしれません。

そのようなときに「そんなにしんどかったんだね」「気づいてあげられなくてごめんね」「どんなことがあっても私はあなたの味方だよ」と、繰り返し勇気を持って伝えること。たとえすぐには子どもはその言葉を受け止めなくても、それが、子どもを癒すことに、必ずつながります。

いわゆる「赤ちゃん返り」が現れることもあります。もう中学生になっている子でも、一緒に寝てほしいとか、おっぱいを触らせてほしいとか、着替えを手伝ってほしいとか、食事を食べさせてほしいなどと、構ってもらおうとすることがあります。それを親が断ると、泣いて怒ったりすることもあります。

このような赤ちゃん返りの言動も、「髪の毛を抜く」という遠回しなSOSから、より直接的な親への愛情のリクエストに変わってきている好ましい変化です。

「全面肯定」してもらえた記憶は、子どもを支え続ける。
「全面肯定」してもらえた記憶は、子どもを支え続ける。

この急な変化に、親のほうも戸惑うのは当然です。できれば、カウンセリングを受けながら子どもに向き合っていくことが、望ましいと思います。

基本的には「どんなあなたでも愛しているよ」という全面肯定のメッセージを送り続けながら、子どもと一緒にいることが基本です。

もちろん、これはとてもしんどいことですが、子どもにとってはいちばん頼もしい伴走者を得られることになります。そうやって問題を乗り越えられたら、その達成は、子どもの、この先の人生を支える力になります。