元財務大臣が十代の娘に語りかけるかたちで、現代の世界と経済のあり方をみごとにひもとき、世界中に衝撃を与えているベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス著、関美和訳)がついに日本に上陸した。
ブレイディみかこ氏が「近年、最も圧倒された本」と評し、佐藤優氏が「金融工学の真髄、格差問題の本質がこの本を読めばよくわかる」と絶賛、ガーディアン紙(「新たな発想の芽を与えてくれるばかりか、次々と思い込みを覆してくれる」)、フィナンシャル・タイムズ紙(「独自の語り口で、大胆かつ滑らかに資本主義の歴史を描き出した」)、タイムズ誌(「著者は勇気と誠実さを併せ持っている。これぞ政治的に最高の美徳だ」)等、驚きや感動の声が広がっているその内容とは? 一部を特別公開したい。

君にはそれが「当たり前」だと思ってほしくない

 先ほど、聖職者とその役割について話したときに、支配者が余剰を独り占めしても許されるような考え方が植えつけられたと言った(前回記事「一部の人だけに『お金』が集まり続ける理由」参照)。

 金持ちも貧乏人も、そんな考え方を当たり前だと思うようになってしまっている。

 金持ちは、自分がカネを持つに値する人間だと思い込んでしまう。君自身も、気づかないうちに矛盾した思い込みに囚われているはずだ。

 お腹を空かせて泣きながら眠りにつく子どもたちがいることに、君は怒っていた。

 だけどその一方で、(子どもはみんなそうだが)君自身はおもちゃや洋服やおうちを持っているのを当たり前だと思っているはずだ。

 人間は、自分が何かを持っていると、それを当然の権利だと思ってしまう。何も持たない人を見ると、同情してそんな状況に怒りを感じるけれど、自分たちの豊かさが、彼らから何かを奪った結果かもしれないとは思わない。

 貧しい人がいる一方で、金持ちや権力者(といってもだいたい同じ人たち)が、自分たちがもっと豊かになるのは当然だし必要なことだと信じ込むのは、そんな心理が働くからだ。

 しかし、金持ちを責めても仕方がない。人は誰でも、自分に都合のいいことを、当たり前で正しいと思ってしまうものだ。

 それでも、君には格差が当たり前だとは思ってほしくない。

 いま、十代の君は格差があることに腹を立てている。もし、ひどい格差があっても仕方ないとあきらめてしまいそうになったら、思い出してほしい。どこから格差がはじまったのかということを。

 赤ちゃんはみんな裸で生まれてくる。高価なベビー服を着せられる赤ちゃんがいる一方で、お腹を空かせ、すべてを奪われ、惨めに生きるしかない赤ちゃんもいる。それは赤ちゃんのせいではなく、社会のせいだ。

 君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために。

(本原稿は『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』からの抜粋です)