どんなに残酷で不当で愚かなことでも多数決なら、、、

「多数決は、みんなの意見を尊重した平等な物事の決め方のように思えますが、実際には『多数派による少数派への不当な暴力』を正当化した不平等なやり方だと思います」

「たとえば、たまたまうちの学校で男子が過半数だったとして、多数決をしたら『少数派の女子を奴隷として扱う』という結果が出ても―もちろんそれは『正しいこと』だと言えないと思いますが―多数決ではそれが『正しいこと』になってしまいます」

「つまり、結論として多数決というのは、多数派の利益のために少数派を不当にないがしろにすることができてしまう、不完全な選択システムだと言えると思います。ね、そうでしょ?」

 最後の「そうでしょ」は、僕に顔を向けてのものだった。まあ、言いたいことはわかる。そして、実際なるほどなとも思った。千幸に論破されるなんてとても悔しいことではあるが。

 いや、待てよ。よくよく考えたら、やりたくもない学級委員に僕がさせられたのは、千幸が煽動した不当な多数決のせいだったじゃないか。あれこそまさに多数派の暴力。その中心にいたおまえが多数決の問題点を語るなど、まさしく語るに落ちるであり、釈然としないものがあるぞ。

 そんなふうに当てこすってやろうかと思ったが、「じゃあ、生徒会長もやりたくないのになったのですか」と、今度は左隣の倫理に責められそうなのでやめておいた。

「いま彼女が言ったことは基本的に正しい。多数派の意見を採用することが必ずしも正義になるとは限らない。どんなに残酷で不当で愚かなことでも多数派によって選択されてしまうことがありうる。多数決の問題は、たしかにそこにあると言える」

「しかし、ではどうすればよいか? どうすれば物事を真に平等に決めることができるだろうか? 単純に均等に分けるのはダメ。多数決もダメ。そこで、人類は『功利主義』という新しい考え方を発明する」

 待ってました、という顔で千幸の顔がほころぶ。そして満足したのか、そのまま席に座った。