功利主義とは何か?

「功利主義とは、『物事の正しさを功利によって決めよう』という考え方のことであるが、功利は日常的に使う言葉ではないから、あまりピンとこないかもしれない。もともと功利とは、効能とか有用といった意味を持つ言葉であるのだが、より日常的な単語である『幸福』という言葉に置き換えてみるとわかりやすい」

「つまり、功利主義とは、幸福主義……、すなわち『物事の正しさを幸福の量によって決めよう』という考え方のことだと思ってもらえればよいだろう」

 「ただし、この説明で特に気に留めておいてほしいのは、幸福の『量』という部分だ。ここはとても重要なところで、この『量』という概念を無視して単純に幸福になる『人数』で正しさを決めてしまうと、多数決と変わりなくなってしまう」

 そりゃあそうだ。ある法律を決めるとして、それが1000人を幸福にする一方で100人を不幸にするものである場合、幸福になる人数の方が多いからといってその法律を採用するなら、それは多数決と同じだと言える。

「だから、功利主義においては、『幸福になる人数』ではなく、あくまでも『幸福の量』を問題にする」

「あ、はいはい! つまり、ハッピーポイントを計算して、その合計値が大きくなるような選択をすることが正義ってことですよね」

 突然、千幸が手を挙げて先生の説明に割り込んだ。おいおい、いきなりハッピーポイントとか、おまえのオリジナル用語を言ったところで先生に通じるわけないだろうが。

「ハッピーポイント……? それは、幸福度の指標値という意味かな? なるほど、そちらの方がわかりやすい名称かもしれないな」

 通じたし、受け入れられてしまった……。

「さて、功利主義の理念を表すものとして『最大多数の最大幸福』という有名な言葉がある。これは文字通り『なるべく大勢の人間について、その幸福度の総量が最大になるような行動をすべきだ』という意味であるが、功利主義者は、この理念に従って全員の幸福度の総量……つまりハッピーポイントの合計値がより大きくなるような選択を行うことが正義だと考える」

 次回記事『飢えて死にそうな人がいても、食料は「平等」に分けるべきか?』に続く。