人のモチベーションは可変量関数
――やる気は「意味」次第で増減する

 意味を語らず、ひたすらにKPIに代表される目標値を振りかざして部下を叱咤するオールドタイプと、目的と意味を語り、部下のモチベーションに訴えるニュータイプとでは、組織から引き出せるパワーに大きな差が生まれることになります。なぜなら、人のモチベーションの量は「意味」によって大きく変わるからです。

 経営資源として挙げられるヒト・モノ・カネのうち、ヒトにだけあってモノとカネにはない最大の特徴は、その「可変性」にあります。神戸大学で長らく経営学の教鞭をとった経営学者の加護野忠男は次のように指摘しています。

「資本と比べた労働に固有の性質は、価値の可変性にある。」
――加護野忠男『経営の精神』

 モノもカネも一旦確定すれば、その後で量が変わるということはありませんが、ヒトの能力はそれを導くリーダーの「意味」の与え方によって簡単に増減します。

 リーダーが「意味」を与えることによって、ヒトというリソースから大きな能力を引き出すことができるのだとすれば、そのようなリーダーには大きな経済的価値が生まれることになります。

 現在、日本企業でもいわゆる「人材アセスメント」を導入する企業が増えています。一般的な人材アセスメントではコンピテンシーを測定するインタビューや360度評価を通じて対象となる個人の能力を数値化し、その結果に基づいて登用・育成・配置の意思決定を行います。

 このアプローチは極めてアメリカ的であり、非常に合理的に聞こえるかもしれませんが、それこそ「浅知恵」と言うべきであり、非常に大きな問題を内包しています。決定的なのは、人間が発揮している能力を静的なものとして捉える、その世界観です。

 これがなぜ問題かというと、人が発揮する能力やコンピテンシーは、その人に対して与えられた「意味」によって大きく変わってしまうからです。

 能力やコンピテンシーというのは静的なものではなく、文脈に依存して大きく変化する動的なものです。なんの「意味」も与えられていない状態で動機付けされていない人を評価すれば、その人が発揮している能力やコンピテンシーが低く評価されるのは当たり前のことです。

 昨今では「部下がだらしない、使えない」と嘆いている管理職がどこの組織でも見られますが、これは典型的なオールドタイプの思考モデルであり、本当に嘆くべきなのは「部下を動機付ける『意味』が与えられない」自分の不甲斐なさであるべきでしょう。