ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題の山口周氏。山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
ある調査によれば、約8~9割の人は、自分の仕事を「どうでもいい」と考えているという。働き方改革によって、あちこちで「生産性」や「KPI」の掛け声がかけられているが、このような状況では、組織が個人の能力を最大限に引き出すのは難しいだろう。これからは、効率や合理性の追求ではなく、働く人のモチベーションを高める工夫こそ必要だ。
切り替わった時代をしなやかに生き抜くために、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」の思考・行動様式へのシフトを説く同書から、一部抜粋して特別公開する。

【オールドタイプ】目標値を与え、KPIで管理する
【ニュータイプ】意味を与え、動機付ける

私たちの仕事は無意味な「クソ仕事」!?
――ケインズの予言は本当に外れたのか?

もし船を造りたいのなら、男たちをかき集め、木材を集めさせ、のこぎりで切って釘で留めさせるのではなく、まず「大海原へ漕ぎ出す」という情熱を植え付けねばならない。
――アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

 20世紀前半に活躍したイギリスの経済学者、J・M・ケインズは、1930年に発表した小論文「孫の世代の経済的可能性」(山岡洋一訳『ケインズ説得論集』)の中で「将来の人は週に15時間しか働かなくなる」と予言しています。

 すなわち、技術が進歩するにつれて、単位労働時間あたりの生産量は増えるので、ニーズを満たすために働かなければならない時間は次第に減り、やがてはほとんど働かなくていい社会がやってくるだろう、と予測したわけです。

 もちろん皆さんもよくご存知の通り、この予言は外れることになったわけですが、なぜ、かくもシンプルなロジックに基づいた予言が外れることになったのでしょうか?

 経済学者が大筋において合意している結論は、ケインズの未来予測は「生産性の継続的な向上」という点では驚くほど的確だったが、「ニーズの総量は一定である」という前提において誤っていたというものです。確かに、労働時間が100年前とほとんど変わっていない現状を踏まえれば、そのような結論が導かれることになるでしょう。

 しかし、私はあえてその結論に対して異論を提示したいと思うのです。その異論とはつまり「ケインズの予測は本当に外れたのか?」という問題です。

 確かに、表面的には先進国の労働時間はケインズの時代とほとんど変わっておらず、1日に3時間しか働かない社会が到来する、というケインズの予測は外れたように思います。しかし、このように考えることはできないでしょうか?

 すなわち、ケインズの予言は実現した。有史以来、人間を悩ませ続けてきた「不満・不安・不便」を解消するために重要な労働は、1日に3時間程度で済むようになった。残りの時間は、実質的な価値を生み出さない「虚業的労働」に陥っている、という考えです。

 このような仮説は唐突に響くかもしれません。しかし、ケインズのこの論文を噛むようにして読んでいくと、当のケインズ自身もこのような状況が発生することを予測していたように感じられるのです。抜粋を引きましょう。

「しかし思うに、余暇が十分にある豊かな時代がくると考えたとき、恐怖心を抱かない国や人はないだろう。人はみな長年にわたって、懸命に努力するようしつけられてきたのであり、楽しむようには育てられていない。とくに才能があるわけではない平凡な人間にとって、暇な時間をどう使うのかは恐ろしい問題である。」
――J・M・ケインズ『ケインズ説得論集』

 この文章を読むと、ケインズ自身も、1日3時間労働が実現すると、余暇に耐えられない多くの人々によって、余った時間を埋め合わせるための「実りのない仕事」が生み出され、そして多くの人は、それらの仕事のあまりの「実りのなさ」に耐えられず精神を病んでしまう、ということを予測していたように思います。

 これが、第2回のメガトレンドで説明した「クソ仕事の蔓延」という問題の背景ですが、このトレンドはどうも全世界的に進行しているようで、たとえばロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会人類学教授、デヴィッド・グレーバーは、2018年に著した書籍『Bullshit Jobs:A Theory(クソ仕事:その理論)』(未邦訳)において「世の中の仕事の過半数は無意味なクソ仕事だ」と指摘しています。

モチベーションが経営資源として希少化している

 前節で指摘した点、つまり私たちの労働の多くが実質的な価値を生み出さないクソ仕事に陥っているという仮説は、さまざまな組織研究・調査からも示唆されています。

 たとえば社員意識調査の大手であるギャロップ社によると「仕事に対して前向きに取り組んでいる」と答える従業員は全世界平均で13%しかいません(*1)。

 また、日本のリクルートキャリアによる「働く喜び調査」でも、「働く喜び」を感じていると答えた人は全体の14%となっており(*2)、その他の調査も含めてまとめれば、およそ8割から9割の人は、自分の仕事を「どうでもいい」と考えており、「意味」や「やりがい」を見出せていないことが示唆されています。これはつまり、現在の企業では「モチベーション」が経営資源として希少化している、ということを意味します。

 このような世界にあって、仕事の「意味」の形成をないがしろにしながら、目の前の仕事で設定されたKPI=経営管理指標の数値を高め、生産性を上げようとするのは典型的なオールドタイプの思考様式と言わざるを得ません。一方で、仕事に「意味」を与え、携わる人から大きなモチベーションを引き出すのがニュータイプということになります。

(注)
*1 https://news.gallup.com/poll/165269/worldwide-employees-engaged-work.aspx
*2 https://www.recruitcareer.co.jp/company/vision/pdf/research_report.pdf
14%という数値は「働く喜びを感じているか」という質問に対して「非常に感じている」「感じている」と回答した人の比率の合計。