どのように部下をまとめ、導けばよいのか、「リーダーとしての仕事のやり方」を教えてくれる会社はほとんどない。そのため、多くの会社で「上司はいるがリーダーがいない」という奇妙な状態が起こっている。

国連、米軍、ディズニー、アメックスなどの一流組織でリーダーシップを教え、TED動画が4000万回以上(史上3位)再生されているコンサルタント、サイモン・シネックによると、リーダーの本質は「人を奮い立たせること」だと指摘する。

シネックの思想を50のシンプルな言葉と美しいイラストにまとめた新刊『「一緒にいたい」と思われるリーダーになる。』の刊行を記念し、本書を監訳したコーチ・エィ社長の鈴木義幸氏に、リーダーが気を付けておくべきことを聞いた。

部下との関係が一気に好転した
上司の「ある情報」とは?

時代錯誤に見える「飲みニケーション」が実はまだまだ有効な理由

 新しく管理職に昇進した方のなかには、若い部下とどう距離感を詰めるべきか悩んでいる方もいるかもしれません。私は、昔ながらの「飲みニケーション」をおすすめします

 部下は普段、上司のことを「勤続何年目でこういう仕事の指示をする人」というように、業務に関係のある部分しか見ません。その点、「飲みニケーション」の場は、部下も上司も、「同じ人間だ」と見えるようになる機会になります。

 いろいろ話をしていくと、普段は怖い顔で資料と向き合っている上司について「プライベートではこういうことをやっているんだ」「こんな家族がいるんだ」「普段こういうことを思っているんだ」ということがわかってきて、上司も一人の人間であることを実感することができます。「上司対部下」の関係から「人間対人間」の関係に近づくんですね。

 「飲み」ではありませんが、以前の私のクライアントだった方から聞いた話です。その方の上司は、普段から部下に厳しく接する人でした。お昼時になるといつも、ランチまで一緒にしたくないために周りから部下がサーっといなくなってしまうような方だったそうです。

 あるとき、たまたま忙しく、お昼時を過ぎて仕事をしていた彼に、その上司から「おい、一緒に昼飯でも食おう。俺は弁当を持っているからお前もなんか買ってこいよ」と声をかけられました。

 二人で会議室で食べようということになって、上司が弁当を開けると、ごはんの上にハートの形をした桜でんぶが載っていて、さらにその上に「パパがんばって」と書いてありました。その方には娘さんがいて、奥さんが作った弁当の上に海苔で作ったとのこと。

 その弁当を見ることで、「ああ、この人にはとても好かれている娘さんがいて、家族がちゃんと存在するのか」と実感することができたそうです。もちろん、前から家族構成は知識として知っていたのですが、履歴書的な情報を知るのと、家族の存在を実感することは天地ほども違います

人を動かすうえで大事なことは
いつの時代も大して変わらない

 それ以来、上司が急にやさしくなったわけではないのですが、上司の話をより素直に聞けるようになったと、その方は話していました。このような現象を「パーソナライゼーション」と言います。

 普段仕事をしていると、どうしても上司も部下もお互い同じ人間だということを忘れてしまいがちです。でも、親の介護が大変だとか、育児が大変だとか、それぞれの背景を抱えて会社にやってきています。そういう「個人の背景」を知るだけでも、人の見方は大きく変わります

 飲み会にこだわらず、「自分はこういう人間だ」ということを部下に知ってもらうことが有効なのは、そういう理由からです。当然、部下の同意を得ずに強引に連れて行くのは問題ですが、飲みでもランチでも、自分の人間性を知ってもらい、部下の人間性を知ろうとする努力は、チームを運営するうえで非常に重要なこと

 「飲みニケーション」というと時代錯誤な印象を持つ方もいるかもしれませんが、人を動かすうえで重要なことは、時代によってそこまで大きく変わらないということだと思います。