倒産寸前から、売上「3倍」、自己資本比率「10倍」、純資産「28倍」、25年連続黒字!?
25年前、メインバンクからも見放された「倒産寸前の会社」があった。株式会社日本レーザー。火中の栗を拾わされた、近藤宣之・新社長を待っていたのは「不良債権」「不良在庫」「不良設備」「不良人材」の「4つの不良」がはびこる《過酷な現場》だった。さらに、大腸ガンなど数々の修羅場が待っていた。しかし、直近では、売上「3倍」、自己資本比率「10倍」、純資産「28倍」。10年以上、離職率ほぼゼロという。
絶望しかない状況に、一体何が起きたのか?
一方、鉄工所なのに、「量産ものはやらない」「ルーティン作業はやらない」「職人はつくらない」。なのに、ここ10年、売上、社員数、取引社数、すべて右肩上がり。しかも経営者が鉄工所の火事で瀕死の大やけどを負い、1か月間、意識を喪失。売上の8割の大量生産を捨て、味噌も買えない極貧生活からのV字回復を果たしたのが山本昌作HILLTOP副社長だ。
記者は数々の経営者を見てきたが、これだけの修羅場をくぐりぬけ、いつも笑顔の経営者は日本でもこの両者しかいないと確信。
そこで企画したのが、『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』の著者・近藤宣之氏と『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』の著者・山本昌作氏による「世紀の修羅場経営者対談」だ。ついに、両者が京都の宇治市にある、HILLTOP本社に集結した。すると初対談はなんと4時間に及んだ。担当編集者もあっという間の4時間という濃い中身。修羅場体験からしか見えてこない情景から今後の人生をぜひ考えていただきたい。熱い対談もついに最終回! 最後に何が語られるのだろうか?(構成・藤吉 豊)
ストライクゾーンばかり狙っても、
変革は起こせない
【著者】近藤宣之(Nobuyuki Kondo)
写真・左
株式会社日本レーザー代表取締役会長
1944年生まれ。慶應義塾大学工学部卒、日本電子株式会社入社。28歳のとき、異例の若さで労組執行委員長に推され11年務める。取締役アメリカ法人支配人などを経て、赤字会社や事業を次々再建。その手腕が評価され、債務超過に陥った子会社の日本レーザー社長に抜擢。就任1年目から黒字化、以降25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。役員、社員含めて総人員は65名、年商40億円で女性管理職が3割。2007年、社員のモチベーションを高める視点から、ファンドを入れずに(社員からの出資と銀行からの長期借入金のみ)、派遣社員・パート社員を除く現在の役員・正社員・嘱託社員が株主となる日本初の「MEBO」(Management and Employee Buyout)で親会社から独立。2017年、新宿税務署管内2万数千社のうち109社(およそ0.4%程度)の「優良申告法人」に認められた。日本商工会議所、経営者協会、日本生産性本部、中小企業家同友会、日本経営合理化協会、関西経営管理協会、松下幸之助経営塾、ダイヤモンド経営塾、慶應義塾大学ビジネス・スクールなどで年60回講演。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、第3回「ホワイト企業大賞」、第10回「勇気ある経営大賞」など受賞多数。「人を大切にする経営学会」の副会長も務める。著書に、『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った全ノウハウ』『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』(以上、ダイヤモンド社)などがある。
【著者】山本昌作(Shosaku Yamamoto)
写真・右
HILLTOP株式会社代表取締役副社長
1954年生まれ。立命館大学経営学部卒業後、母に懇願され、全聾の兄(現代表取締役社長)のためにつくった有限会社山本精工に入社。自動車メーカーの孫請だった油まみれの鉄工所を、「社員が誇りに思えるような“夢工場”に」「“白衣を着て働く工場”にする」と、多品種単品のアルミ加工メーカーに脱皮させる。鉄工所でありながら、「量産ものはやらない」「ルーティン作業はやらない」「職人はつくらない」という型破りな発想で改革を断行。毎日同じ部品を大量生産していた鉄工所は、今や、宇宙やロボット、医療やバイオの部品まで手がける「24時間無人加工の夢工場」へ変身。取引先は、2018年度末で世界中に3000社超になる見込。中には、東証一部上場のスーパーゼネコンから、ウォルト・ディズニー・カンパニー、NASA(アメリカ航空宇宙局)まで世界トップ企業も含まれる。鉄工所の平均利益率3~8%を大きく凌ぐ「利益率20%を超えるIT鉄工所」としてテレビなどにも取り上げられ、年間2000人超が本社見学に訪れる。生産性追求と監視・管理型の指導を徹底排除。人間が本来やるべき知的作業に特化し、機械にできることは機械にやらせる24時間無人加工を実現。「ものづくりの前に人づくり」「利益より人の成長を追いかける」「社員のモチベーションが上がる5%理論」を実践。入社半年の社員でもプログラムが組めるしくみや、新しいこと・面白いことにどんどんチャレンジできる風土で、やる気あふれる社員が続出。人間本来の「合理性」に根ざした経営で、全国から応募者が殺到中(中には超一流大学の学生から外国人学生までも)。鉄工所の火事で1か月間意識を失い、3度の臨死体験をしながらも、2002年度、2006年度「関西IT百撰」最優秀企業。2008年度「京都中小企業優良企業表彰」、2011年度「経営合理化大賞 フジサンケイビジネスアイ賞」、2016年度には日本設備管理学会「ものづくり大賞」など数々の賞を受賞。2017年12月、経済産業省による「地域未来牽引企業」に選定。経営のかたわら、名古屋工業大学非常勤講師、大阪大学非常勤講師、ダイヤモンド経営塾講師など精力的に活動中。「楽しくなければ仕事じゃない」がモットー。著書に、『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』(ダイヤモンド社)がある。
山本:社員はみんな、違った個性を持っています。
得意不得意も、やりたいことも、好きなことも、それぞれ違う。
だから、社員をひとつにくくったり、
単一に扱うのは間違っている
と思うのです。
今やっていることが、この先も同じように続くとは限らないのだから、社員から「こういうことをやってみたい」という声が出たら、やらせてみたらいい。
そうすれば、新しいビジネスの可能性が広がるかもしれません。
近藤:おっしゃるとおりですよね。
山本:おそらく、「本業で儲かっているから、このままでいい」と現状に満足している人は、目の前に広がっている可能性に気がつかないのだと思います。
でも僕は貪欲だから(笑)、チャンスがあれば掴んでみたいし、おもしろそうなことはやってみたい。
掴めなくたっていいんです。
掴めなかったら、なぜ掴めなかったか、その原因がわかりますから。
原因を特定し、改善すれば、次のチャンスは掴めるようになります。
近藤:社員に権限を与えて、仕事を任せて、失敗してもいいからやらせてみたらいいのですよね。
日本レーザーも、「権限の範囲」や「個人で使える予算の範囲」を広げています。
最初は「50万円損しても困るな」というところから、「100万円までならいい」、「200万円までなら大丈夫」と許容できるレベルが上がっていって、今の当社の実力であれば、「500万円までなら予算を使っていいから、好きなことをやれ」と社員に言っています。
山本:日本の中小企業、とくに製造業は冒険をしないと成長は望めませんよね。
ストライクゾーンばかり狙っても、変革を起こせるわけがない。
ボール球も振ってみる。
振ってみて当たらなかったら、「なぜ当たらないんだろう?」と考える。
バットの長さが足りないから当たらなかったのか、バッターボックスの立ち位置が悪いから当たらなかったのか、「当たらない理由」を考えることが重要だと思います。
経営者に必要なのは
「失敗」に対する寛容さ
近藤:山本さんは、失敗に対する寛容さをお持ちですよね。
山本:怒ってもしかたがないですから。
HILLTOPが零細企業だったとき、社員の多くは元ヤンキー・元暴走族だったので、「この仕事をやれ」と命じても、「難しくて自分にはできない」と言って、やらないのです。
だから、
「失敗してもいいから、やってみいひん?」
「簡単簡単、全然大丈夫! こんなの普通にやったらできるから、とりあえずやってみたら?」
となだめすかしてやらせるわけです。
失敗したからといって僕が怒ったら、彼らは二度とやりません。
近藤:社員が増えてくれば、トップダウンによる経営は難しくなります。
社員一人ひとりが、「社長的な感覚」を持って仕事をしなければ、すぐに頭打ちになってしまうでしょう。
だからこそ、失敗をしてもいいから、社員に任せてみる。
社員が自主的に動くようになれば、会社に活気が出ます。
山本:だから、僕たち経営者が社員に望むのは、「社員自身が、自分で自分をマネジメントしてくれること」しかありません。
近藤:そうですよね。
山本:そもそも僕は、マネジメントできないし、財務のこともよくわかりませんから(笑)。
近藤:……(笑)。とくに中小企業では、何から何まで自分で抱え込もうとする社長が多い気がします。
山本:そんなことしたら、寝る時間がありません(笑)。
近藤:経営者の多くは、どうしても、目標とノルマを一緒に考えていますよね。
目標はノルマとは違って「こういうことがやってみたい」という成長の種ですから、たとえ達成できなくても、ペナルティを与えてはいけないわけです。
山本:そのとおりだと思います。
とはいえ、あまりにも悪びれず、
「失敗しました! 損しました!」
と明るく言われると、
「ちょっとは痛みを感じろよ」
と言いたくなりますけど(笑)。
近藤:貴重なお話しをありがとうございました。
本当に楽しかったです。またゆっくり工場見学させてください。
山本:はい。いつでもお待ちしています!