そもそも全体の8割の人はマッチを持って世の中に出てきます。でも途中でマッチが湿気ってしまうのです。最終的に乾いたマッチを持つ人(=リーダー)は、100人中3人くらいしかいません。ただ、持っていたマッチが湿気ってしまった人は、誰かがマッチを擦って火を付けてあげれば燃えることができます。ここにリーダーの役割があるんです。

吉本社長は「社長の器」だが今は
20%くらいしか力を発揮できていない

――リーダーとしての資質という観点から、吉本さんをどう評価していますか。

 潜在能力は高いし、人間性もいい。よく働く。そういう意味においては社長の器です。しかしまだ経営の基本が身に付いていないこともあり、潜在能力の20%くらいしか使えていません。だから私から指導を受けることも大切ですが、自ら盗み取るくらいの気概と執念がもっともっと必要でしょう。

 社長に指名して1年、ずっと黙って彼の仕事ぶりを見てきました。なぜか。人間は失敗とか挫折から出発しないと成功しないからです。

 残念ながら1年目の業績は(下方修正するなど)良くありませんでした。(米中摩擦など)環境の悪化もありましたから、全て吉本君のせいだとは言いません。しかし立派な後継者を育てるにはそれぐらいの授業料を払わないと無理です。

 1年間やらせてみて、本当に良かった。何より吉本君本人が自分の経営力を過信したところがありましたが、まだまだこんな低いレベルだと自覚しているから。これはなかなかできることじゃない。立派なものです。

 私がまたいろいろ口出しするようになったので、「また社長に復帰するのか」という声も上がっていますが、そんなことをしたら意味がありません。サポートはしますけど。

1973年に永守氏(手前左)が3人の仲間と創業した日本電産(写真は当時)。しかし事業承継は、創業とは別の難しさがある。

 今、彼には海外事業の立て直しをしてもらうべく、米国を中心に飛び回ってもらっています。まず海外で実績を上げて、そこから日本に凱旋してこいと。人心を掌握するには、やはり大きな手柄が必要なんです。

 海外を回る中で時には会議で一緒になることもあります。そういうときは、私が現地とどのように接しているか、どういうふうに語っているかを見せるようにしています。そうやって現地・現場で学んでいくというのも非常に大事なことなんですよ。

 私が時間をかけ段階を踏んで吉本君を後継者として育てることで、彼が自分の後継者を育てるときに自身の経験からどうやって教えればいいかがよく分かるはずです。

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