オンワードはいち早くECにシフトすることによって、百貨店からの退店という思い切った手が打てた。
しかし三陽商会では、いまだに売り上げの約7割を占める百貨店が重要なチャネルである。第2四半期決算でも百貨店の売上高は前年比96.8%とじりじりと下がっていても引けない状況にある。
まだ売ることができる土地やキャッシュがあるうちはいいが、バーバリーを失ったころとは違い、現在の三陽商会の買い手はもういない。
経営の立て直しのためには、デジタルトランスフォーメーションは粛々とやるべきだ。岩田氏が外部登用した慎正宗執行役員は続投し、引き続きデジタル化を急ぐが、業績へのインパクトはまだまだ小さい。
根本的に同社が改革を考えるなら、百貨店事業の立て直しをする必要があるだろう。百貨店市場が縮小していくことに変わりはないが、百貨店にとって三陽商会はオンワードよりもプレゼンスが高いぶん、まだ勝機はある。
現在、自社ブランドとして立ち上げた「CAST:」を地方百貨店やSC(ショッピングセンター)を中心に出店を進めているが、「品質やターゲットは間違いなく百貨店で戦えるレベル。都市部のほうが成功できるはずだ」とあるマーケターは率直に話す。
とはいえ、CAST:は立ち上がったばかり。このままずるずると赤字が続けば、キャッシュが潤沢にあったところでいずれは尽きる。
考えうる最悪のシナリオとは。「会社はブランドが大事だと思っているため、切羽詰まれば、国内自社工場の事業譲渡をするのではないか。三陽商会の中でも工場なら引き取り手があるだろう」とある業界コンサルタントは声を潜める。
これは、品質こそが同社の本質的な強さだということの証左だ。国内に生産工場を持ち、高品質の製品を作ることができるのは三陽商会の最大の強みである。バーバリーはライセンスがあったから売れていただけではなく、製品のクオリティが伴ったからこそ売れたのだ。
しかし、事業の切り売りは“禁じ手”だ。使えば三陽商会の致命傷になるだろう。新社長体制がどの事業に注力していくかの選択に、同社の命運はかかっている。