アドラー心理学に救われたSKE48卒業当時
柴田 私、3年前にSKE48を卒業してフリーアナウンサーになってから、日々お会いする人の数が一気に増え、ややキャパオーバーに陥ってしまった時期があるんです。そんな中、アドラーの「課題の分離」という考え方に出合って、すごく気持ちがスッキリしたんです。
哲学者
1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界各国でベストセラーとなり、アドラー心理学の新しい古典となった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』執筆後は、アドラーが生前そうであったように、世界をより善いところとするため、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』『幸福の哲学』などがある。
岸見 グループを離れたことで、対人関係の質に明確な変化があったわけですね。
柴田 そうですね。それまではSKE48という、大勢の中の1人として関係者と接すればよかったものが、フリーになってからは逆に、私という個人がスタッフさんたちの中に入っていかなければならない機会が増えました。もともと人付き合いが得意ではないこともあって、そうした新しい対人関係に疲れてしまって……。
岸見 人付き合いが苦手だからこそ、人付き合いが上手になるということはあります。そもそも本当に人が苦手で避けたいという人は、この本を手に取ることもしないでしょう。
柴田 なるほど、確かにそうかもしれませんね。あるいは『嫌われる勇気』を読んでからは、人付き合いが苦手なのではなくて、人と付き合いたくないから苦手だという理由を自分で作っているのかな、と考えるようにもなりました。
岸見 いいですね。そうやって苦手意識を克服したという読者の方がたくさんおられます。
柴田 あとがきで古賀さんも書かれていましたが、1冊の本との出合いで人生や価値観が変わることって、本当にあるんですよね。私にとって『嫌われる勇気』がまさにそれでした。
『嫌われる勇気』は自己啓発書なのか?
柴田 それにしても、この本を自己啓発書と心理学書の間に置いていた書店さんは、内容をよく理解されているなと、今更ながら感心してしまいます。
古賀 そうかもしれないですね。僕としてはこの本を、自己啓発書とはっきり規定しているわけではなくて、どちらかといえば岸見先生のご専門である哲学書なのかなと考えています。ただ、もともと哲学も自己啓発も出発点は同じなんですよ。
柴田 それは、どういうことでしょう?
ライター/編集者
1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』および『幸せになる勇気』の「勇気の二部作」を岸見氏と共著で刊行。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。
古賀 自己啓発の始まりは、イギリスのサミュエル・スマイルズが1859年に書いた、『Self-Help』という本でした。これが日本で『自助論』というタイトル(当初は『西国立志編』)で出版され、『学問のすゝめ』と並ぶ教育・教養の書としてベストセラーになります。そしてこの「Self-Help」という言葉が「自己啓発」と呼ばれるようになり、現在の自己啓発というジャンルにつながっていきました。つまり、出発点は哲学にも通じる、生き方を問う本なんです。
岸見 これだけ長く、多くの方に読んでいただけているのも、自己啓発という分野を特に意識していなかったからかもしれませんね。
柴田 ただ私自身、何度も読み返しているものの、まだまだ完全に内容を理解できているわけではないと思うんです。
岸見 それは正しく読んでいただけている証拠です。一読してすぐに「わかった」という人は多いですが、この本はむしろ、少し斜に構えながら、疑り深く読まれる人に深く理解されると思います。
柴田 つまり、ここに登場する青年のような、ちょっと捻くれたキャラクターの人が望ましいわけですね(笑)。
古賀 そうですね(笑)。アドラー心理学について書かれた本は他にも存在しますが、『嫌われる勇気』は青年の悩みもたくさん詰め込まれているのが特徴だと思います。日常のさまざまな場面で悩み、時に卑屈になったりする様子は、いわば現代人特有のコンプレックスを凝縮したもので、悩みと答えがセットになっているからこそ、多くの読者の共感を集められたのではないでしょうか。
柴田 ここに書かれていることはどれも、決して他人事な感じがしないんですよ。単に理論が説明されているだけなら、これほど自分の身に置き換えて考えることはできなかったかも。
古賀 答えだけを示すのではなくて、この本では青年が感じている苦しさ、しんどい気持ちを一緒に体感してほしかったんです。
柴田 そう、読んでいる時にしんどいんですよ。青年の悩みが身をもってわかってしまうだけに。
岸見 哲人が説教する本であれば、読者の皆さんも嫌になってしまいますからね。青年を介することで、いっそう共感と理解が深まるのです。おかげで、哲人に共感してくれる人はほぼ皆無なのですが(笑)。
柴田 そうかもしれませんが、こうした対話形式だからこそ、私もこれほど『嫌われる勇気』にハマることができたんだと思います(笑)。
(Amazonは12/12発売)