「条件付きの延長になると思います」。青瓦台(韓国大統領府)に勤務経験のある韓国の外務省幹部OBの一人は一貫してこう語っていた。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に関して韓国が表明していた破棄決定を巡る最終判断の行方のことだ。協定が効力を失う時刻は11月23日午前0時。日本政府関係者は、こぞって破棄は避けられないとみていた。新聞にも「失効不可避」など否定的な見出しが躍っていた。
一方の日本政府内にも「常識的には協定継続」の見方も存在したが、あくまでも少数派にすぎなかった。事態が急転したのは22日午後6時すぎ。韓国大統領府の国家安保室第1次長、金有根(キム・ユングン)による記者会見だった。
「日本に対するGSOMIA終了通報の効力を停止させる」
首相の安倍晋三も慌ただしく官邸で記者団の質問に答えた。
「日韓、日米韓の連携、協力は極めて重要で、私も繰り返し申し上げてきた。韓国もそうした戦略的観点から判断したのだろう」
その表情には満足感より不意を突かれた意外感が漂っていた。韓国大統領の文在寅にとってGSOMIAの継続か破棄かは、北朝鮮との関係強化を目指すのかそれとも日米韓の安保体制に引き続きくみするのかという極めて大きな政治判断が伴った。しかも韓国国内世論は破棄を支持する声が圧倒的。文にとって大きな賭けでもあった。
今回の判断は、それだけ米政府の圧力が強烈だったことを証明する。この1カ月でソウルを訪れた米政府幹部の顔触れも、米側がGSOMIAをどれほど重視しているのかを浮かび上がらせた。国防長官のエスパー、在韓米軍司令官のエイブラムス、さらに在韓米軍の駐留経費の負担増要求などからめ手からも文に揺さぶりを掛けた。
「大統領は米国の圧力がいかに強烈なものだったのかをしみじみ感じていたと思う。大統領が一人で責任を負うにはあまりに荷が重過ぎた」