首相官邸の玄関ホールで首相が記者団のインタビューを受けるようになったのは小泉純一郎のときからだ。それまでの旧官邸時代は、首相執務室のドアまで総理番記者が首相を取り囲むように移動しながら直接質問することができた。中曽根康弘はあまりの質問攻めに怒りをあらわにしたこともあった。
「木魚を打つようにポンポン聞くもんじゃない」
この首相取材の慣行を変えたのが小泉だった。首相に対する直接取材の機会が激減するためメディア側はこれに強く反発した。首相サイドとメディアサイドとの間で協議が続いた。そこで小泉サイドが妥協案を示した。
「午前と午後1度ずつ首相がぶら下がりインタビューに応じる」
活字メディアは強く反対したが、テレビメディアはもろ手を挙げて賛成した。発信力のある小泉が毎日、しかもテレビカメラの前で取材に応じるとなれば反対する理由はなかった。
ところが、この取材方式をこなせた首相は「ワンフレーズポリティクス」といわれるほど、キャッチーな言葉を駆使しながら国民世論を引き付けた小泉だけ。中には発言が物議を醸して政治的に追い込まれた首相もいた。
こんな経緯を知っているからだろう。首相の安倍晋三は記者団が声掛けをしてもほとんど質問を無視して玄関ホールを素通りする。北朝鮮のミサイル発射の際など、自ら発信の必要があるときだけマイクに向かう。味も素っ気もない短時間のやりとりをして終わる。これが日常的に繰り返されるのが今の官邸の取材風景だ。そこにはハプニングもサプライズもない。
説明すればするほど
膨らむ矛盾や問題点
その安倍が「桜を見る会」を巡る問題表面化では全く異なる対応を見せたのだった。11月15日には午前と午後の2回にわたって取材に応じた。午後のインタビューに至っては21分間に及んだ。さらに18日にも追加取材に答えている。考えられないような“サービス”ぶりを多くのメディアが「異例の対応」と報じた。安倍の危機感の表れとみるのが自然だろう。
発端は「桜を見る会」に安倍が多数の地元支援者を招待しているのではないかという「私物化」の疑いが浮上したことだった。11月8日の参院予算委員会で共産党の田村智子が安倍を追及した。
「首相自身も地元後援会の皆さんを多数招待しているのではないか」
これに対する首相の答弁がその後の問題拡大に火を付けた。