事例:シニア社員には「これ」が効く!

 ある食品メーカーのシニア社員は、「俺は体力がないから外回りはもう無理です。手書きポップだけつくります」と宣言して、社内に引きこもっていました。「何を勝手に」という話ですが、手書きポップ自体の質は高く、一日中、楽しそうにつくっています。

 彼がつくるポップの特徴は、「お客さま向け」ではなく「店員向け」であること。小売店のレジ周りにあるガムや飴は、店員のひと声が購入のきっかけになることがよくあります。そこで彼は、レジの中にいる店員に向け、「こんなひと言で勧めてみてください」と提案するポップを数多くつくり、好評を得ていたのです。

 彼の上司である課長は、メンバーから半ば「窓際」扱いされている彼にスポットライトを当てたいと考えました。そこで「手書きポップの技術、すごいですね。この手書きポップの書き方を若い衆に教えてやってくださいよ。講習会を開きたいんです」と提案しました。

 最初はそのシニア社員、ほかのメンバーともに乗り気ではないように見えた講習会でしたが、手書きポップのつくり方を語る中で見えてくる「シニア社員ならではの視点」にメンバーは感嘆。

 これをきっかけに、営業マンのいろいろな相談がシニア社員に寄せられるようになりました。さらには「よし、あの店のオーナーはおれが昔担当していたんだ。ついていってやる」と、トラブルになった営業マンの火消し役として同行するまでになったのです。「体力がないから外回りはもう無理」と泣き言を言っていたのが嘘のようです。

「得意なこと」と「頼られている実感」がてこになり、このシニア社員のモチベーションは大きく変わりました。シニア社員にもまだまだ、会社に貢献するだけのパワーは残っています。

 しかし注意点がひとつあります。シニアのモチベーション「だけ」に頼っていては、パワーは長続きしません。「プラスα」の仕事をお願いしたのであれば、その仕事は「ボランティア」ではなく、しっかり評価で報いることが大切です。