東京銀座で、90代と80代になった今でも現役で患者を診療しているふたりの医師がいる。
ひとりは、オルソクリニック名誉医院長の熊本悦明先生(90歳)。そしてもう一人は、女性成人病クリニック院長・村崎芙蓉子先生(84歳)。
奇しくも、それぞれのクリニックが同じ銀座にあり、対談が実現。今回は、ホルモンをテーマとした書籍を熊本先生が発売したこともあり、元気ホルモンであるテストステロン、そしてアンチエイジングにも効く女性ホルモンについて、忌憚なく語ってもらった。
(聞き手:石原壮一郎、撮影:宇佐見利明)
90代と80代の今も銀座で患者を診察!
長年にわたってホルモン補充療法を牽引
――いきなり年齢の話で恐縮ですが、まずは90歳の熊本先生は、日々、多くの患者さんを診察したり、学会や講演で全国を飛び回ったり、現役バリバリで活躍なさっています。
熊本悦明(以下、熊本) ありがたいことに、大手の会社の会長さんや、社長、その知り合いの人たちまで口コミで患者さんがいらしてくれるんです。また、最近の医療学会では「最新の技術で病気を治す」という目的以外に、「いつまでも元気に過ごす」ということも注目されてきており、講演会などでお話しする機会が増えています。
――確かに、予防医学や、健康医学という言葉もよく聞くようになりました。
熊本 はい。私が1970年から主張している「男性更年期」の認識がやっと広まってきて、男女ともにホルモン治療などがようやく一般的になってきました。そういった流れもあって、診察の合間に制作した本(『「男性医学の父」が教える最強の体調管理』)も、この秋に出版させていただきました。
――本当に活動的ですね! 失礼ながら90歳とは思えません。学会の出張に行かれたり、ご自宅のある北海道や、仕事場である小田原、そして銀座の診療と、すべて自分でスケジュールを決めて、お一人で移動されているんですよね。
熊本 はい。そうですよ。最近は歩くときに杖も使っていますが、基本的に一人です。原稿のメールのやりとりや、学会でのパワーポイントの資料作成も自分でやっています。
このように、元気で仕事を続けていられるのは、これも、みな元気ホルモンである「テストステロン」が私の体内にたくさんあるからですね。私は70代から継続してこのテストステロンを補充しています。
――テストステロンというのは男性ホルモンのことですよね?
熊本 はい。男性にも女性にも体内にあるホルモンなのですが、やはり加齢とともに減っていく。それが急に少なくなると、「だるい」「集中できない」「疲れやすい」「うつっぽい」といった体調不良が現れてきます。
実は、テストステロンは、ストレスを感じると減ってしまいます。仕事や家庭でストレスが増えてくる、管理職世代の40代、50代や、さらに勤務体系が不規則な仕事だと30代でもテストステロン値が低くなると報告されています。私の患者さんの例だと、昇進して新しい職場になったり、転勤で単身赴任になりして体調不良になってしまうケースを多く見てきました。
テストステロンが急激に減ったりすると、とたんに具合が悪くなります。しかし、原因が不明とされてしまうことも多く、心療内科に行ったり、内科でクスリをもらったりしても効かない。血液検査でホルモン値を調べてもらえば、すぐにわかるのに、それが広まっていないのです。
男性更年期が心配な世代の人にこそ、テストステロンの重要性を理解してもらいたいと思っています。
――先生は日本国内で誰よりも早く、毎日を元気に過ごす上でのテストステロンの重要性に着目し、60年以上にわたって研究臨床を続けてこられました。
熊本 はい。私たち医師が働きかけたことにより、症状などの条件を満たせば健康保険が適用されるようになりました。が、まだまだ一般の方はもちろん医者でさえも、体調不良の原因の多くがテストステロンに関係していると認識している人は多くはありません。
心療内科で「うつ」と診断されて大量の薬を飲んでもいっこうに回復しなかった患者さんが、テストステロンを補充したら一気に元気を取り戻した例は、山のようにあります。
――村崎先生は、女性ホルモンの臨床での第一人者ですが、やはりホルモンの重要性を身をもって理解されているとか。
村崎芙蓉子(以下、村崎) はい。私は50代の頃、自分自身が重い更年期障害に悩まされました。それをきっかけに、女性の身体にとって「エストロゲン」(女性ホルモン)がいかに大切で、大事な働きをしているかを知ったのです。
エストロゲンが減少してくると、閉経、ほてりやのぼせ、うつといった体調不良が顕著になってきます。もちろん人によってさまざまな症状があります。
熊本 男性更年期も人によって症状はさまざまです。
村崎 そうなんです。また不調がひどい人もいれば、軽い人もいます。それで、自分自身の体調不良をどうにか改善したいと、興味を持って勉強してみたら、欧米諸国ではホルモン補充療法が広く取り入れられ、病気の治療や予防、健康維持に効果を上げていることがわかりました。