大会の数が増えたことで「地力」が可視化された

 昔の大会は現在に比べて数が圧倒的に少なく、メジャーなタイトルでも年に1回~2回程度。しかも、1試合で決着がつくルールでした。負ければそれで終わりです。

 大会が特別な存在であればあるほど、「駆け引きで、今だけ勝つ」戦略が正解となります。試行回数が少ないほど、「過程」や「内容」の価値が暴落します。勝たないと次がないのだから、手段が問われなくなるからです。今勝てばそれでいいし、今勝たなきゃなんにもならない。2度は引っかからないような、稚拙なだまし討ちであっても一向にかまいません。そういう意味で、取れる手段も大きく広がります。
 こうした大会環境では、地力の優劣を可視化しきれていませんでした。「大会で勝つ」ことと「強い」ことに大きな乖離があった時代。僕は、実力で上回るプレイヤーに駆け引きで勝って、ただ喜んでいました。今になって思うと、当時から地力を追求していたプレイヤーは、本当に格闘ゲームが好きな人たちだったのだと思います。

 一方、現在は大会の数が圧倒的に増えたことで、地力が成績として可視化されやすくなりました。試行回数が増えるほど、あるべき数字に落ち着く。いわゆる「大数の法則」が働くからです。
 感覚的にはeスポーツ化以前の時代と比較して、試行回数は数十倍。そのような競技の世界では、アベレージが大切になります。より地力を高めないと安定した成績が残せません。つまり、「大会で勝つ」ことと「強い(実力がある)」ことが、以前よりもずっと、イコールに近くなってきたのです。この環境の変化が、僕がスランプに陥った一因です。