FacebookやTwitterから、YouTubeにInstagram、そしてTikTokまで––20世紀とは比べ物にならないほど、多様なメディアが人びとの生活に溶け込んでいます。ますます“メディア戦国時代”の様相を呈している、2020年。どのメディアが廃れ、どのメディアが生き残るのでしょうか。2018年11月に『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』(幻冬舎)を刊行した明石ガクトさん(ソーシャルエンタメ動画のコンテンツスタジオ、ワンメディア代表)、2019年10月に『TikTok: 最強のSNSは中国から生まれる』(ダイヤモンド社)を上梓した黄未来さんが対談し、メディアの未来を語ります。

2020年代の「揺り戻し」現象を論じた前編、メディア業界の最新トレンドについて語られた中編に続き、後編では、外的要因に振り回されず「やりたいこと」に没頭するための生存戦略が明かされました。(構成:小池真幸)

やりたいことを追求するなら、人を動かすことばを持とう。明石ガクトと黄未来が語る、メディア業界の最新トレンド(後編)

退屈に耐えるか、不安と戦うか

:『動画2.0』を読んだときも思ったのですが、ガクトさんってアーティスト気質ですよね。「ビジネス的に儲かるからやろう」ではなく、「実現するかわからないけど、自分の理想を追い求めるために挑戦しよう」というスタンス。

とにかくチャレンジの種を撒きまくっているように感じます。安定したキャッシュを得られるビジネスをひとつ持っておいたうえで、自分の好きなことにチャレンジするようなポートフォリオの組み方は取っていない。

明石:そうですね、戦略はないです(笑)。じつはワンメディアを立ち上げる前、いかにも手堅く儲かりそうな、出版社向けのCMSを提供する会社をつくったことがあるんです。

実際にすごく儲かったんですが、全然楽しめなくて。好きなことができていないストレスがどんどんたまっていきました。

:そのお話は知りませんでした。

明石:そのときに「俺はこんな感じで終わっていいのか?」と考えて、自分が一番好きだった動画にコミットすることを決めたんです。自分が大好きなものが世の中を変えるかもしれない可能性にオールインしないと、人生を楽しめないなと。だから今は、120%の力で動画にコミットする不器用な経営をしているんです。

:すてきですね。私も思うんですが、人生って退屈に耐えるか不安と戦うかの選択だな……と。

明石:いいフレーズですね。

:でも、不安に耐え続けていると、鬱になっちゃうじゃないですか。退屈は誰しも経験があり、あるていどはやり過ごす術を知っていますが、不安は違います。ガクトさんは、どうやって耐えているんですか? やっぱりサウナですか(笑)?

明石:サウナも大事だけど、他のところでもたくさん話しているから(笑)、別の話をしますね。大学生のときに、映像のつくり方からお酒の飲み方まで、大切なことをたくさん教えてくれた先輩がいて。当時の僕はけっこうな苦学生。お金がなくてたくさんバイトしなければいけなかったけれど、通っていた上智大学は出席も授業も厳しくて、頑張らないと留年してしまうような環境でした。

でも、退屈でしかたなかった高校生までと比べて、東京での生活が楽しかった。だから、地元には帰りたくなかったんです。

:まさに、退屈と不安、どちらと戦うかを迫られていたんですね。

明石:そうそう。で、ありのままの不安をその先輩に相談したんです。すると、「なあガクト、人生っていうのは、ふたつの永遠という闇の間の、一瞬の光なんだよ。だから思いっきり楽しんで生きればいいんだよ」と言ってくれて。

生まれる前と、死んだ後。ふたつの闇の間に、ちょっと遊びにきているだけなんだから、楽しめばいいんだと。いま思うとクサいセリフなんですけど、当時の僕にはすごく刺さったんです。

:すてきな先輩ですね。

明石:不安になるのは、自分がちゃんとしていないから。どこか手を抜いているからじゃないでしょうか。

なすべきことをしていれば、不安は薄まっていくはずです。120%のパワーで頑張れば、「これだけやってダメなら、しかたない」と思えますから。そこまでやり切る覚悟がないなら、退屈と戦ったほうがいいと思いますね。

やりたいことを追求するなら、人を動かすことばを持とう。明石ガクトと黄未来が語る、メディア業界の最新トレンド(後編)明石ガクト(あかし・がくと)
2014年6月、新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。独自の動画論をベースにSNSやLINE、OOHなどあらゆるデジタルスクリーンに対応する動画をプロデュース。2018年にNewsPicks Bookから自身初となる著書『動画2.0』を出版。その他、情報番組やバラエティ番組にもコメンテーターとして出演。

外的要因に振り回されないため、自分を変数にする

:一方で、すごく頑張ったのに、外的な要因のせいで失敗してしまうこともありますよね。自分が影響を及ぼせない変数があるときのやるせなさや悲しさは、どうやって消化していますか?

明石:どうしようもない、変えられない要因があるときは、自分が変数になるしかないんですよ。

ワンメディアも、自身が変数となることで状況を打開してきました。動画をやりたいけれど、YouTubeは失敗し、巨大なテレビCM業界にいきなり斬り込むのも難しい。でも、FacebookやTwitterでたくさんシェアされる動画ならつくれるかもしれない。

:ご自身が変数になり、勝てる領域を変えていくことで道を切り拓いたんですね。

明石:ジェフ・ベゾスだって同じです。オンラインショッピングが来るのはわかっていても、いきなりファッションや生鮮食品に手を出していたら勝てなかったでしょう。腐らないし、梱包もしやすい“本”に目をつけられたからこそ、伸びたんです。本当にやりたいジャンルが決まっているなら、その中に無限の選択肢があるはずです。

:無限の選択肢のなかから、どのように適切なものを見極めているんですか?

明石:そこで、サウナが活躍するわけです(笑)。玉石混交の中からベストソリューションを選び取るためには、一歩引いて考えなければいけません。

YouTubeに失敗したときに「もう終わりだ!」とならなかったからこそ、いまがある。冷静になって、「SNSの動画なら勝てるかもしれない」と考えられた。サウナは、一歩引いた思考をめぐらせる場所として最適なんですよ(笑)。
 

やりたいことを追求するなら、人を動かすことばを持とう。明石ガクトと黄未来が語る、メディア業界の最新トレンド(後編)黄未来(こう・みく)
1989年中国・西安市生まれ。6歳で来日。南方商人である父方、教育家系である母方より、 華僑的ビジネス及び華僑的教育の哲学を引き継ぐ。早稲田大学先進理工学部卒業後、2012年に三井物産に入社。国際貿易及び投資管理に6年半従事したのち、2018年秋より上海交通大学MBAに留学。現在は中国を本拠地として、オンラインサロン「中国トレンド情報局」も主宰。

人を動かしたいなら、“説得”してはいけない

:あらためて思いましたが、ガクトさんは力強いことばを持っていますよね。キャッチーで、伝わりやすいです。

明石:そう言ってもらえると嬉しいけれど、友達の三浦崇宏(The Breakthrough Company GO・代表)なんて、もっとすごい。15秒に1回は名言を吐く、パンチライン製造機ですから。

:ふつうの人と、なにが違うのでしょうか?

明石:僕も三浦も、ヒップホップが好きな点は共通していますね。強いことばを手に入れたいなら、ヒップホップを聴くのがおすすめです。

ことばのリズム、印象に残るフレーズ、社会的な文脈を踏まえて、強く刺さるメッセージがつくられていますから。心に残ることばを習得するには、一番いい方法だと思います。

:たしかに、歌詞を書く人ってすごいですよね。プロジェクトを進めていくときにメンバーをまとめていく力とも、通ずる部分が大きい気がします。

最近、ひとつ悩んでいることがあって。「このプランはいける!」と思っても、人がついてきてくれない。いくらロジックを立てて説明しても、薄い反応しか返ってこず、実行に結びつかないんです。

明石:あー、もしかして黃さん、人を説得しようとしてませんか?

:してます! え、だめなんですか…?

明石:説得はだめです(笑)。もっとだめなのは論破ですけど。本当に人を動かしたり、社会を変えようと思ったら、自分の意思で変わってもらう必要がある。

僕がすごく意識しているのは、自分が見えている景色を、象徴的で刺さることばで伝えること。「『映像』と『動画』は違います。相違点は、主に3つの“S”でまとめられます。『スマートフォン』『スピード』『サイレンス』の3つです」というように。

:とてもわかりやすいですね。

明石:相手の頭の中に、「なるほど、映像と動画の違いがクリアに理解できました」と景色が浮かぶようにするんです。けっして説得はしない。自分の考え方のOSを相手の頭にインストールできれば、自ずと連れて行きたい方向に動いてくれるはずです。

そのときに気をつけるべきなのは、ことばのリズムです。たとえば、「映像と動画」は、「戦争と平和」と似た韻を踏んでいます。中国の漢文もそうじゃないですか。耳に残るリズムを意識する。「●●から●●へ」といった慣用的なリズムに乗せて、聞き手の頭にキーワードを残していくんです。

:でもそのコミュニケーション、すごく難しいですよね?

明石:これって自分で言うのもなんですけど(笑)、宗教家のコミュニケーションなんですよ。“動画教”ですから。あらゆる新興宗教を研究し、大真面目に宗教のつくりかたを考えた『完全教祖マニュアル』という本があるんですが、それを読んでこのノウハウを身につけたんです。この本は著名な某企業家とか某編集者など、実はみんな読んでますね(笑)。

「宗教」ということばは、日本では悪いものとして受け止められがちですよね。でもヨーロッパでは、最上級の褒めことばなんです。宗教と言われるほど熱量を高めるのは、ブランドの最終的な到達点。だって、ルイ・ヴィトンは店員さんが説得したりしてこないでしょ?

:たしかに、ブランド店のスタッフに説得されるのは嫌です(笑)。

明石:説得してくるブランドとか、クソダサいじゃないですか。もちろん、いろんな歴史的な背景やデザインで優れている点とかはありますよ。でも、いちいちそれを説明したりはしてこないですよね。何も言わなくても、みんなが良さを確信しているのは、まさに「宗教的」です。

:私は、しつこいショップ店員と同じことをしてしまっていたんですね。

明石:「買ってください」と言っちゃだめなんです。こうみくさんが描いている未来や景色について、「そうなるといいな」と憧れさせなきゃいけないんです。事業をつくりたいなら、共感してくれる人たちを増やすのが大事だと思います。

:なんで私がダメだったのか、めちゃくちゃ腑に落ちました……。最後は個人的な相談になっちゃいましたが、楽しかったです。本当にありがとうございました!

(終わり)