5分差で対立する二つの情報開示がなされたことで、前田建設グループ内で“親子喧嘩”が繰り広げられている様相が建設業界のみならず、投資の世界で注目を集めることとなった。
道路による適時開示に向けた準備は、2019年12月に急展開を迎えた。
もともと、19年5月から12月にかけて、建設の幹部や経営企画の担当者などが道路を訪問し、100年ビジョンや10年計画といった未来への考え方の概要を説明してきたり、2社の関係性について協議を申し出てきたベースがあった。そして12月4日、建設が道路株式のTOBを行い、経営への関与を強化する提案をして、同月20日までに回答するよう迫ったのだった。
納得がいかなかった道路側は、具体的な効果の推計データを要請したものの回答は得られなかった。そして道路が建設に資本関係解消の提案書を提出したが、建設は書面を受け取らなかった。道路の役員の中には議論の過程で、「資本関係はこのままでもいい」と発言した者もいたが、建設に取り付く島はなかった。この頃のことを道路関係者は「連結子会社化というストーリーありきで押し通したいのだと感じた」と振り返る。
こうした過程を経て、建設への対応を検討していた道路は、1月中旬、対抗策に弾みを付けることとなった。きっかけは、道路の本社に前田建設の前田操治社長が直々に訪問したいというアポイントが入ったこと。日付は20日、時間も指定されていたため、「これはなにかあるかもしれない」と道路の社員たちは二つの可能性を警戒していた。
一つ目は、さかのぼること同月9日、道路で社長・会長を歴任した岡部正嗣名誉会長が死去したことに関係する。故岡部氏はもともと前田建設の副社長であり、1992年に前田道路に転籍していた。義理の甥は前田操治社長であり、前田建設創業家の前田家とのゆかりもある人物だった。