数多くのテレビ出演や講演、ベストセラー作家としての顔を持つ明治大学教授の齋藤孝先生と、
『ぴったんこカン・カン』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『輝く! 日本レコード大賞』など
数々の人気番組の司会者として知られるTBSアナウンサーの安住紳一郎さん。

TBS『新・情報7days ニュースキャスター』で司会者とコメンテーターとして共演しているふたりは、かつて明治大学で先生と生徒の関係だった。
中学校高校国語科の教員免許を持つ安住アナは当時、明大の教職課程で齋藤孝先生の授業を受けていた。
そんな師弟関係にあり、日本屈指の話し手であるふたりが、『話すチカラ』について縦横無尽に語り尽くす。

“国語科オタク”を自認する安住アナの日本語へのディープなこだわりは必読。
齋藤孝ゼミの現役明大生を前に、安住アナが熱弁をふるった白熱教室の内容も盛り込む。

学生からビジネスパーソン、主婦まで、日ごろの雑談からスピーチ、プレゼンまで楽しくなる『話すチカラ』が身につく!

安住紳一郎TBSアナウンサーが語る<br />なくすとよくなる<br />“曖昧な語尾”とは?Photo: Adobe Stock

語尾に
曖昧な言葉を
使わない

語尾の使い方で話の印象は大きく変わります。

たとえば、「○○ですね」のように語尾に「ね」をつけると、途端に話しやすくなります。
特に、相手の同意がほしいときには、どうしても「ね」をつけたくなります。

結果として、「ね」をつけるのがクセになり、多用しがちです。

たしかに「ね」は、便利な語尾です。やわらかくて親しみやすく聞こえる効果もあります。

ただし、語尾に「ね」をつけすぎると、ちょっと押しつけがましい印象も出てきます。

ですから、自分が「ね」を多用していると気づいたなら、意識して削るべきです。

私も放送で「ね」を使いすぎている日があります。
すると、その次の日には、台本の一番上に「『ね』禁止!」と書いて注意します。

「〜と思います」のように、話を曖昧にする語尾も要注意です。

リポーターが「それでは、御茶ノ水に新しく豚丼のお店ができたということなので、これから私がリポートしてみたいと思います」と言っています。

一見すると問題のない言い方ですが、厳しくみると、まわりくどいのです。

この「思います」は、あくまでもリポーターの心の動きです。

「あなたの心の動きはどうでもいいから、さっさとリポートしたら」と言いたい気持ちになるのです。

この場合は、思い切って曖昧な語尾を削り、「新しい豚丼のお店ができたようなのでリポートします」「新しいお店ができましたので、行ってみましょう」のほうがスッキリします。

前者のほうが使いやすい表現なのですが、後者のように使いづらいけれどニュアンスがより伝わるほうにも、たまにトライしてみてください。

もう一例、お話しします。

東京都港区の泉岳寺駅から神奈川県横須賀市の浦賀駅まで、京浜急行電鉄の「京急本線」が走っています。

赤い車両が特徴的で「赤い弾丸」と呼ばれ、首都圏で人気の鉄道路線の1つでもあります。

この京急という鉄道会社は、独自の哲学のもと事業運営をしています。

たとえば、京急の車掌さんは、電車がホームに着き、ドアが開き、乗客が乗り込んだタイミングで、次のようにアナウンスします。

「ドアを閉めます」

ほかの鉄道会社の車掌さんは、「ドアが閉まります」とアナウンスするのが一般的です。
「ドアが閉まります」には、「ドアが閉まるので、そのドアに挟まれないようにしてくださいね」というニュアンスが感じられます。

これに対して、京急は「閉めます」と言い切っています。

京急の「ドアを閉めます」には「私の責任でドアを閉めますから、皆さん気をつけてください」という意志の強さを感じます。

結果として、お客さんの間で「車掌さんの迷惑になるから駆け込み乗車はやめよう」というコンセンサスがとれやすいかもしれません。

語尾が曖昧になると、責任の所在も曖昧になります。

断定して責任をとるのが恐いという感情から、表現が曖昧に遠まわしになるのです。
時代なのかもしれません。

「こちら、2000円になります」

接客業などで、よく聞く言葉づかいであり、マナー本などでは「悪い例」として紹介されることがあります。

「2000円」には間違いがないので、「なります」は蛇足。
なのですが、なんとなく金銭について直接的に言うのははばかられるので、「なります」という言葉でやわらかくしています。

こういう場合の曖昧さは、賛否が分かれます。

「させていただきます」となると、さらにまどろっこしさが増します。

「このたび新しい映画を公開させていただくことになり、その映画で主演を務めさせていただきました私、俳優をさせていただいている○○と申します。
お集まりいただいた皆さんに一言ご挨拶させていただきます。それでは失礼させていただきます」

このように「させていただきます」の連発は最近のトレンドともいえます。

「なるべく周囲と波風を立てたくない」「出しゃばりすぎて目をつけられたくない」という潜在意識が働いているのでしょう。

でも、「させていただきます」を多用すると覚悟がないように思われます。「させていただきます」は、使って1回か2回です。

たくさんの人の前に出て「謙遜」のフレーズばかりだと、スピーチはだいたいダレるという話をさせていただきました(笑)。

(次回に続く)