「送料込み」に表現変更して遂行
三木谷社長の強気は裏目に
公取委と楽天の攻防が激化したのは、2月10日に公取委が楽天への立ち入り調査を実施してからだ。これを受けて楽天は、「送料無料化」の表現を「送料込み」に改めたことで、対立が深まった。
独禁法に詳しい専門家によると、公取委が優越的地位の乱用を認定するには、楽天が出店者に不利益を与えていることを立証する必要がある。
つまり、楽天が送料込みに名称変更した狙いは「出店者は送料分を販売価格で調整すればよいので不利益は被らない」との理屈を押し通すためだったのは明らか。これにより一時は専門家の間でも、楽天の主張が説得力を持つとみる声が増えた。
だが、ある出店者によると「送料込みという表現に変えても、事実上、出店者は送料を被ることになる」のが実態だ。
商品の送料は北海道や九州など地域によってまちまちで、それを一律に商品価格に転嫁するのは難しい。高い地域の送料を価格に転嫁しなければ赤字になるが、仮にそれを適用して商品価格に転嫁すれば、他社より商品が高くなり、たちまち競争に不利になる。
公取委はこうした出店者の声を聴取したことで自信を深め、「出店者が収受できていた送料が収受できなくなることでは(送料無料化も送料込みも)全く変わりない」(公取委の稲熊克紀第二審査長)と断定、表現を変えて法令違反を免れようとする楽天の主張を一蹴した。
ある公取委の幹部は「楽天は立ち入り調査の段階で送料無料を取り下げるべきだった。普通のコンプライアンス体制が整った企業なら、立ち入り調査が入ったらとりあえずはやめる。まったく態度を変えない楽天の対応は理解できない」と述べる。
三木谷社長は送料無料化について「政府や公取委と対峙しても必ず遂行する」と述べたが、その強気な態度が裏目に出て、公取委の不信を買ったのは間違いない。
「優越的地位」の立証は困難も
「必ずやる」と公取委幹部
今後、公取委は、東京地裁の緊急停止命令を待ちながら、楽天の送料無料化に対して優越的地位の乱用を認定する調査を継続する。
だが、プラットフォーマーを相手に優越的地位の乱用を認定する作業には未知な部分が多い。まず、楽天の出店者は約5万店。公取委は、出店者1件1件について、経済的な不利益を立証する膨大な作業を強いられる。果たして5万店のうちどこまで調査対象を広げ、そのうちの何件についての違反認定が必要なのかは手法が確立されていない。
また、公取委の調査に協力した出店者は、供述調書に名前が残るため、最終的に楽天に名前が知られる可能性がある。楽天の報復をおそれて公取委の調査を拒否する出店者も多いとみられ、証拠固めのハードルはさらに高くなる。
それでも公取委は「時間は掛かっても必ずやる」(前述の幹部)方針だ。現実的には、裁判所が緊急停止命令を下して楽天がそれに応じれば公取委は調査を終了する可能性が高いが、楽天が抵抗を続けている中で、できるだけの調査を進めてノウハウを蓄積する狙いもありそうだ。