市販薬の購入でも税金が戻る制度がある

 医療費控除の対象となるのは、補てん金などを差し引いた正味の医療費が10万円(もしくは「総所得金額×5%」)を超えている人に限られます。そこで「セルフメディケーション税制」という医療費控除の特例があります。一部の市販薬(処方箋なしで変える薬)を1万2000円以上購入していれば、控除を受けられるというものです。

 “一部の市販薬”とは、医療用医薬品から転用された成分を含む「スイッチOTC医薬品」のことです。図表3のように、レシートに「★」がついていたりするなど、対象であることが明示されているので、簡単に見分けがつきます。申告者本人または本人と生計を一にする親族や家族が、スイッチOTC医薬品を合計で年間1万2000円を超えて購入していた場合、上限8万8000円まで控除を受けられます。

 ただし、申告者本人(家族や親族は不要)が以下のいずれかの健診や予防接種を受けていなければなりません。

〈セルフメディケーション税制を受けるのに必要な検診や予防接種〉
所得税や住民税を納めていて、以下のいずれかの健診や予防接種を受けている人が対象となります。
・市町村や健保、国保などが実施する健康診断(人間ドッグ、各種健診や検診)
・予防接種(インフルエンザワクチンの予防接種など)
・定期健康診断(事業主検診)
・特定健康診査(いわゆるメタボ検診)または特定保健指導
・市町村が実施するがん検診

 仮にスイッチOTC医薬品を年間6万円(1ヵ月あたり5000円)購入し、所得税20%、個人住民税10%だった場合、セルフメディケーション税制」によって、減税される税金は次のようになります。

〈セルフメディケーション税制の計算例〉
•所得税の減税額
(6万円-1万2000円)×20%=9600円 …… ①
•個人住民税(翌年度)の減税額
(6万円-1万2000円)×個人住民税率10%=4800円 …… ②
•減税効果(還付金)※住民税の4800円は、翌年の住民税からの減税となる
①+②=1万4400円

通常の医療費控除とセルフメディケーション税制でおトクなのは?

 注意してほしいのは、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制の2つの制度を同時に利用することができないことです。スイッチOTC医薬品を含んだ医療費の支払いが10万円を超えている場合、どちらかを選択する必要があります。共働きの場合には、夫婦それぞれが確定申告を行い、一人が医療費控除、もう一人がセルフメディケーション税制を受けることもできますが、通常は収入の多い側にまとめたほうが、節税効果は大きくなります。

 どちらを選ぶのがトクになるかは、ケース・バイ・ケースです。どちらも戻ってくる金額は「控除額×所得税・住民税の税率」で計算するため、控除額が多いほうを選択したほうがトクです。たとえば、医療機関や調剤薬局への支払い額が8万円、市販薬が7万円の場合、控除対象額は次のようになります。

〈通常の医療費控除の控除対象額〉
15万円-10万円=5万円
〈セルフメディケーション税制の控除対象額〉
7万円-1 万2000円=5万8000円

 このケースでは、セルフメディケーション税制を選んだほうが、控除対象額が8000円多くなるのでトクです。所得税20%、個人住民税10%とした場合、実際の節税額として2400円分トクすることになります。ただし、前記したとおり、条件によって結果は違ってきますから、実際に計算してみて、トクになるほうを選びましょう。

 なお、セルフメディケーション税制の場合も、確定申告書の書き方や必要書類等は通常の医療費控除
とほぼ同じです。控除の対象になる領収書を収集・整理し、国税庁のホームページなどで「セルフメ
ディケーション税制の明細書」を入手して記入します。この明細書と確定申告書のほか、健康診断の結果通知表や予防接種の領収書、予防接種済証などを提出することになります。