公共事業の削減で“後進国化”する
中野 まず、財政支出の中身は公共事業に限りません。年金や医療費の補填、少子化対策や弱者保護政策など、公共事業以外にも財政支出が必要な分野はいくらでもあります。それに、公共事業も必要なものや効果的なものに限定すればいいでしょう。とにかく重要なのは、これまで説明してきたように、デフレを脱却するまで、財政赤字を拡大し続けることなんです。
ただし、デフレ下においては、「無駄な公共事業による財政拡張」は、「無駄な公共事業の削減による財政縮小」よりもはるかに望ましいことは理解すべきです。なぜなら、何度も繰り返しますが、財政縮小は貨幣供給量の減少を招くからです。これがデフレ下では最もマズい。
もちろん、効果的な公共事業を行うのがいいに決まっていますが、財政縮小をするくらいなら、たとえ無駄な公共事業であっても、やったほういいんです。というか、やらないとデフレはますます悪化します。
――なるほど。
中野 それに、いまの日本において、公共事業によるインフラ整備はきわめて重要なテーマになっています。
――インフラ整備がですか? 「鹿しか通らない道路」を作りまくって、さんざん叩かれてきたじゃないですか?
中野 たしかに、インフラ整備はさんざん叩かれてきました。そして、この20年間、「コンクリートから人へ」などといったスローガンとともに、日本は公共事業をガンガン削ってきたわけです。ところが、これが大問題を引き起こしています。
まず老朽化の問題です。20世紀の初頭から、世界中で先進国の電化、モータリゼーションが進み、電力網や道路網といったインフラが整備されました。そして、こうしたインフラはだいたい50年から70年で老朽化して更新期を迎えます。
アメリカの場合には、1920年代から1930年代にかけて整備されたダムや橋が、1980年代くらいから老朽化し始めました。にもかかわらず、財政赤字の拡大などの理由で、十分な老朽化対策がなされなかったので、その後、橋が落ちるなど非常に危ない状況に陥ったんです。
日本の場合は、戦争に負けたということもあって、高度成長期にインフラ整備を行いました。ということは、2000年代に入った頃から老朽化が始まっているわけです。つまり、人類が初めて経験する第一回目のインフラの更新期を、欧米は1980年代から、日本は2000年代から経験しているということです。
なんとなく、日本ではインフラ整備と聞くと、発展途上国がやることで、成熟した日本にとっては時代遅れのものだという印象がありますが、全然違うんです。インフラの更新期を迎えた先進国にとっても、インフラ整備はきわめて重要なことなんです。
これは、公共投資に限りません。民間だって、工場とか設備などの工業インフラがもうボロボロになっています。そうした民間の工業インフラをリニューアルするための民間投資を促進することも、非常に重要なことです。
そして、私たちの世代がインフラ投資をしなければ、将来世代にボロボロのインフラを手渡すことになるんです。
――まさに、“後進国化”するわけですね?