「2月初頭から一気に(新型コロナの)影響が出た。それ以来、新規の予約はほぼゼロ」――。西陣織の機織りの音が響く上京区の鞍馬口通り近くで、町家を改装したゲストハウス「十六夜」を営む河野鉄平さん(61歳)はこう訴える。

 長野県軽井沢町でのペンション経営などを経て、同町に家族を残し、生まれた街の京都で老後を過ごそうと開業して3年目。西陣織工場として使われていた築100年を超える町家の土地を約2000万円で取得。建物は約2500万円かけて改装した。改装費の一部を日本政策金融公庫の融資で賄った。階段状の箪笥やランプなど内装にはひときわこだわった。

2500万円かけて町屋を改装したゲストハウス2500万円かけて町屋を改装したゲストハウス Photo by Satoru Okada

 当初、宿泊客の中心は日本人だった。そして、海外の大手宿泊予約サイト「ブッキングドットコム」など、欧米人がよく使う旅行サイトに情報を掲載すると、欧米系の客が急増し、半分程度を占めるまでになった。春や秋など観光シーズンの客室稼働率は8割程度と、経営も安定軌道に乗っていた。

 そこに襲い掛かったのが、新型コロナである。世界の感染拡大とともに、欧米客のキャンセルが続々と増え、日本人客も減少に転じた。「今はキャンセルを伝えるGmailの通知音におびえる日々」(河野さん)。日本の女性雑誌などへの広告も出し始めたが、国内では自粛ムードが広がる。JR東海は、3月19日~31日に東海道新幹線「のぞみ」を192本減便すると発表。桜が満開になる本来のハイシーズンに、需要そのものが激減している状況だ。

 またここ数年、京都市内で一気に増えたシティホテルも、宿泊客の減少を受け一気に値下げしている。個人経営の宿泊施設ではとても太刀打ちできない状況だ。

 宿泊収入で返済してきた河野さんの借り入れは今なお、約1000万円近く残る。日本政策金融公庫に相談したところ、低利での追加融資を勧められた。しかし返済できない場合のリスクが高まるため、追加で借金をする勇気はなかった。河野さんはむしろリスケ(元金の支払い猶予)を要請し、結果を待っている状況だ。