英語でビジネスと聞くとそれだけで構えてしまいそう。だが、決して流ちょうでなくても“世界共通語”でうまくコミュニケーションを取り、ビジネスを成功させている例がある。特集『商社の英語術』(全19回)の#10では、非ネイティブのための伝わる英語を掘り下げる。
世界で戦う日本人に学ぶ
“グロービッシュ”のすすめ
「以前は通訳を入れたこともあったのですが、専門知識のない通訳が入った方が、消化不良を起こしがちなことに気がついて……」
神奈川県愛川町に本社を構える塩化ビニールの安定剤メーカー、サンエースでは、かれこれ20年、経営会議を英語で行っている。
それもそのはず。1980年にシンガポールに進出して以来、オーストラリア、マレーシア、インド、中国、サウジアラビア、ドイツ、南アフリカ共和国など、現在では世界12カ国16拠点を構え、安定剤で世界シェア2位を誇るグローバル企業なのだ。国内従業員70人に対して、海外従業員は530人で、売り上げも9割を海外が占める。
グループ全体の経営に関与している幹部9人のうち、日本人は佐々木亮会長と吉田耕次社長の2人だけだ。あとはシンガポール、サウジアラビア、南アフリカなどの現地法人の責任者で、こうした多国籍経営の形態を始めてすでに22年になる。
「仕事の進め方や価値観が、日本とはまるで違う」――。
シンガポールに初進出したときに佐々木会長はそう実感した。顧客との打ち合わせを重ねながら配合を変えていかなければならない安定剤のビジネスは、密なコミュニケーションが最も重要。だからこそ、「技術は教え込む必要があるが、それ以外の経営や営業プロセスまで日本に倣う必要はない」と判断したという。以来、全ての海外拠点を、現地のスタイルで経営している。
佐々木会長はシンガポールに11年、吉田社長もシンガポールに3年のほか、インドにも赴任した経験がある。「とはいえ、現地で鍛えたサバイバルイングリッシュ」と2人は口をそろえる。
だが、経営会議のメンバーも、ほとんどが英語は母国語ではない。そのため、「だからこそお互いに分かりやすい英語になる」(吉田社長)。もちろん化学に関する専門用語は飛び交うが、それは全員が知っている分野なので問題ない。互いに英語が母国語ではない、“非”ネイティブ同士のコミュニケーションだからこそ、誤解が生まれないよう気を付けたり、丁寧に議論を進める配慮が生まれたりするのだ。