「上司のメンツ」を潰せば、
職場を機能不全に陥れる

 また、「能力の低い上司」を差し置いて、参謀が仕事を進めるのもいただけません。

 たしかに、「能力の高い部下」が上司に替わって仕事をしたほうが、一見、スムーズにことが運ぶように見えることがあります。しかし、それは、上司を「機能」させたわけではなく、単に、上司のメンツを潰したというだけのこと。その結果、上司との関係性が悪化すれば、職場そのものを機能不全に陥れてしまいかねません。

 実際、こんなことがありました。私が部長級だった頃のことです。直属の課長に配属されたのは、他社から転職してきた人物でした。彼は計算が得意で、データを整理してもらうと一級の仕事をしてくれました。ただ、転職して日が浅かったために、タイヤ業界や社内の事情が十分にわかっていない。だから、社歴の長い、仕事のできる部下にサポートしてやってほしいと頼んだことがあります。

 ところが、これがうまくいかなかった。

 些細なことで、ふたりがギクシャクするようになったのです。たとえば、私が課長にある資料の作成を頼んだのですが、後日、課長がもってきた資料の趣旨がズレている。だから、もう一度、趣旨を丁寧に説明して、作り直しを要請。すると、今度は、作り直した資料をもって、課長とサポート役の部下が一緒にやってきました。

 しかし、まだ資料がズレている。それを指摘すると、課長が話そうとするのを制止して、「やっぱり、そうですよね。ならば、こういう資料もありますから、あとでそれを加えて再提出しますよ」と部下がしゃべり始めたのです。

 彼の提案は的を射たものでした。

 おそらく、彼は、課長から資料作成を指示されたときに、私の意図を察知していたのでしょう。ところが、課長は彼の提案を聞かずに、間違った方向の指示を出してしまったために、不十分な資料になってしまったわけです。部下にすれば、それが不満だったのかもしれませんが、課長のメンツは丸潰れ。私は、「そうしてくれ」と返事をしながら、「まずいことになったな……」と思いました。

「自己顕示欲」がすべてを台無しにする

 その後も、同じようなことが何度も起きました。

 課長の仕事がうまくいかないと、サポート役の部下がしゃしゃり出てくるのです。彼は、サポートしているつもりなのでしょうが、課長はそのたびにメンツを潰されるわけですから、どうしたって二人の関係はギクシャクします。ほかのスタッフにさりげなく状況を聞くと、職場の雰囲気もピリピリしていると言います。

 これは、私の判断ミスです。

 正直、その課長よりも、サポート役の部下のほうが仕事はできました。しかし、その部下は、人の気持ちを推し量る能力に欠けていました。そのことに気づかず、仕事ができるというだけの理由で、課長のサポート役を頼んでしまった私にも責任があります

 だから、それとなくサポート役の部下に注意を促しましたが、なかなか気づいてくれない。むしろ、彼にすれば、自分の仕事に加えて、課長のサポートに労力を取られているわけですから、「しかるべく評価してほしい」という気持ちが強い。それだけに、自分の行為を客観的な視点で反省するのが難しい状況にあったのでしょう。彼の言動を軌道修正するのは難しかった。私の力不足ということですが、結局、やむなく人事異動の際に二人をそっと引き離すようにするほかありませんでした。

 そして、その部下には、参謀は務まらないと判断せざるをえませんでした。

 彼は能力も高く、上司をサポートするだけの実力も確実にありました。しかし、要するに自己顕示欲が強いのでしょう。ほとんど無意識的に、自分は上司よりも有能であるということをアピールしようとしてしまう。そして、上司のメンツを潰してしまうわけです。

 その結果、職場の雰囲気まで壊してしまうわけですから、とてもではありませんが、上司を「機能」させているとは言えません。せっかく仕事ができるのに、非常にもったいないことだと思います