経営戦略の精度が投資家コミュニケーションの精度に直結する

村上:注意しておきたいのは、「コミュニケーション」とは、ただ単に、話し方のことを指しているのではないということです。経営戦略の立て方から投資家への説明の仕方までを総合したものが「投資家コミュニケーション」です。

良いコミュニケーションができる会社というのは、そもそも経営戦略が緻密です。戦略・投資家への説明ともに筋が一貫していて、かつ、マーケットの変化を見極めて戦略をチューニングすることができる。投資家からの信頼が厚く、時機に応じて必要な投資をし、着実に計画を達成していく。

反対に、コミュニケーションが巧くない会社とは、根拠薄弱なまま「とにかく成長します」と説明しているような会社ですね。確かに結果として売上は伸びているんだけど、見立てに根拠がないから、当初の説明ほどは伸びていない。また、読みが浅いからコストが余分にかかって想定ほど利益が出ていないといったことも起きる。

このように、見立てと結果の差分が大きく、しかもその理由を説明できない会社が、「コミュニケーションが巧くない会社」です。それでも売上が上がっているとしたら、なんとなくマーケットが伸びているところに凧を上げたら上昇気流で伸びたということ。

その目利き自体は評価できるのですが、経営戦略や投資家説明の解像度は非常に粗いという状態です。そういった会社は、コロナ禍の状況のようにマーケット環境が悪くなると、資金調達がより難しくなるでしょう。

朝倉:「βの追い風」を「αの実力値」と混同してしまうということですね。

関連して、コミュニケーションのタイミングについても考えてみましょう。上場・未上場問わず、自社の調子がいいときは、投資家から何も言われずとも、むしろ積極的にアピールしたいですよね。

一方で、あまり状況が芳しくないときは、できることなら忘れておいて欲しい時もあるでしょうし、詳しく説明することによって、かえって投資家から厳しい目で詮索されてしまうことを恐れるという局面もあると思います。この点、業績が厳しいときでも、あえて積極的に投資家に情報開示すべきかどうかは、気になる点でしょう。

悪いときこそしっかりとした説明を

小林:私は以前、上場企業在籍時に株主コミュニケーションを担っていましたが、その中で感じたのは、業績が厳しいときにきちんと説明した投資家ほど、会社のことを長期的に支えてくれるということです。

やはり、良いときは多くの投資家が注目しますが、潮が引いたときは、さーっと資金を引き上げる人も少なからずいました。一方で、長く会社を支えてくれた投資家というのは、悪いときも含めてずっと会社の状況を注視・理解してくれた人です。状況がよくないときにも、しっかりとコミュニケーションをとることができた投資家とは長い関係になったと感じます。

村上:良いときは、コミュニケーションはシンプルで事足りますが、景気が悪いときは投資家も懐疑的になるので、同じ説明ではとても納得してもらえず、ロジカルに根拠のしっかりした説明をしなければなりません。

そこに真摯に取り組み、かつ説得力のある説明ができる会社は、コミュニケーション力、IR力、経営力が高いという評価をされるため、小林さんが先述していたような結果につながるのだと思います。