大恐慌襲来 「7割経済」の衝撃#1Photo:strixcode/gettyimages

経済活動が大幅に縮む「7割経済」下で、脱落する企業と浮上する企業を独自ランキングであぶり出した。対象の上場企業2560社のうち、ワースト1位は業績悪化から抜け出せずにいる電気機器メーカーだった。特集『大恐慌襲来 「7割経済」の衝撃』(全22回)の#1では、総合ランキングのベスト200社とワースト200社を一挙に掲載する (ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

キャッシュ・イズ・キングでは勝てない
危機に投資できる企業が「真のキング」

 キャッシュ・イズ・キング(現金は王様)――。永守重信・日本電産会長は、4月30日に開催された2020年3月期の決算説明会の席で「今(危機の時)はキャッシュ・イズ・キングの時。だからいらないものには金を使わない」と明言。これまで積極姿勢を鮮明にしてきたM&A(企業の合併、買収)を一旦、手控えるとも取れる発言だった。

 3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大が世界規模に広がったことで、大手企業は一斉に金融機関に融資を要請。キャッシュを確保する動きが活発化した。永守発言に歩調を合わせたわけでもあるまいが、その後の大手企業による3月期決算説明会では、手元流動性が十分にあることを強調して信用力をアピールする経営者が目立った。

 同時に、多くの企業が大幅な固定費カットによる利益の捻出策に着手。新たな融資(枠)の設定と固定費削減という「2点セット」でコロナ危機を乗り切ろうという算段なのだろう。

 リーマンショック、東日本大震災と幾度となく大きな危機に直面した経営者が、キャッシュの確保に走るのは当然の帰結である。1990年代後半の金融危機時には、金融機関による“貸し剝がし”に見舞われたという苦い経験もあり、経営者は自社の資金が枯渇する前の自衛手段としてキャッシュ確保に動いているのだ。

 これから本格化する4〜6月期の決算発表は、企業の経済活動が最も制限された期間でもあることから、かなりシビアな業績が続出することが確実だ。

 人件費や設備投資、研究開発投資の抑制によって固定費を中心にコストダウンし、なんとか損益計算書(PL)を見映えの良い体裁に整えようとする動きは加速することだろう。

 しかし、である。本当の危機がやってくるのはこれからだ。コロナを端緒とする今回のビッグクライシスは、キャッシュ確保と固定費ダウンという“危機時の王道”の2点セットだけでは生き残れない。

 ある金融機関幹部は「自動車、重厚長大、航空、不動産などの業種に属する企業が、バランスシート(BS)不況に陥るリスクがある」と懸念を表明する。

 どういうことか。その背景には、日本企業が向き合わねばならぬ“厳しい現実”が二つある。

 一つ目は、当面、コロナ以前の経済状況には戻らないということである。コロナ以降は、多くの産業において「7割経済=超縮小経済」になるといわれる。例えば、20年の世界の自動車市場は「2割減」になる見通しであるし、リアル店舗を主体とする外食・小売りのようなBtoC(消費者向け)ビジネスはさらに落ち込みが激しい。売上高が損益分岐点(売上高=費用となる売上高)を下回れば赤字に転落する企業が続出し、その損失がBSを毀損してしまう。

 過去を振り返れば、91年頃のバブル崩壊と景気後退により、企業の売上高が激減した後に起こったのが不良債権処理だった。商社、小売り、建設などの不況業種は、雇用・設備・債務の三つの過剰が浮き彫りとなり、大リストラと業界再編成を迫られるという塗炭の苦しみを味わった。

「7割経済=超縮小経済」の到来で、またその厳しい世界が広がろうとしているのだ。これは二つ目の現実にも関わることなのだが、この30年間で抜本的な構造改革に着手しきれなかった企業・業種は、いよいよ「平成のレガシーコスト(負の遺産)」を一気に大掃除する必要に迫られている。

 二つ目は、テクノロジーの革新的進化や、米中対立などの地政学リスクの高まりにより、社会や業界のトレンドが激変するという現実である。全業種でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速していることからも分かるように、既存ビジネスの激変はビジネスマンの誰もが感じていることであろう。

 それでは、「7割経済+トレンドの激変」に企業はどう対峙すればいいのか。少なくともその解は、キャッシュ蓄積と固定費ダウンの2点セットでは不十分である。金を溜め込んで羽を縮めているだけでは、「超縮小経済」に連なるように企業の成長もストップするだけだ。