日本人でも海外運用のヒーローになれる

藤野 これは是非とも申し上げたいことなのですが、奥野さんは同じ運用者として、本当に頑張って欲しいと思います。なぜなら、米国株投資をはじめとしたグローバルな投資の世界において、日本人のヒーローが非常に少ないのが現実だからです。私たちは非常に大きな資金を運用しているのですが、そこに日本人の顔が見えてこないのです。日本の投資信託で外国株式や外国債券を投資対象にしているファンドはありますが、日本の運用会社は海外拠点を持たず、ファンドマネージャーが直接、外国企業をリサーチすることもなく、大半は外部委託によって運用されています。日本の投資信託会社が設定・運用しているファンドであるにもかかわらず、実質的な運用者は海外の運用会社というケースがどんどん増えているのが現実です。だからこそ、「グローバル運用における日本人運用者の数をもっと増やしたい」と、いつも考えているのです。

奥野 そうですね。確かに悔しい気持ちはあります。基本的に投資するという行為に国境はありませんし、誰でも国境を超えることが出来ます。たとえば日本の自動車メーカーは、米国やその他の諸外国に販売拠点や工場を設立するといった設備投資を行っています。まさに国境を超えた投資を行っているのですが、こういった投資を行う場合は、現地のマーケティングから人材確保に至るまで、非常に高いハードルをクリアしなければなりません。でも、これが株式などの有価証券投資であれば、少額資金でも国境を超える投資を容易に実行に移すことが出来ます。実際には為替変動リスクが怖いなどと、もっともらしい理由を付けて海外投資を避けようとする個人が多いのですが、これこそまさに日本人がいかに経済を理解していないかの証左です。これを乗り越えるために、日本人でも外国企業をしっかり評価して投資判断を下せることを証明したいし、本や学校での授業を通じて後進に伝えていきたいと思います。

藤野 グローバルに投資家を見ると、短期投資家とインデックス投資家が非常に増えていますから、むしろ長期的な目線で本当に良い企業を発掘すれば、高いリターンを実現できる余地が広まっていると私は考えていますし、もっと言えば日本人でも米国の投資家に負けない運用は十分に出来ると思うのです。というのも米国の投資家が企業にインタビューする際、ほとんどが月次や四半期決算の数字ばかりを聞いてくるので、経営者としてもうんざりしているのですね。そういう状況を目の当たりにすると、米国をはじめとするグローバル運用で、私たちが勝てる余地はまだまだたくさんありそうです。

奥野 それは同感です。私も米国企業に取材しに行くことがあるのですが、先方からよく言われるのは、「業績などの数字の話をしないミーティングは初めてだ」ということなのです。それだけ米国の投資家は、目先の数字にばかり囚われているという証左だと思うのですが、私たちは目先の業績よりも参入障壁にこだわっているので、来期の業績予想はどうなのかとか、利益率は何パーセントなのかといった話はいっさいしません。もちろん、運用者によってスタイルは違いますから、皆が自分たちと同じスタイルで投資をするべきだなどと言うつもりも毛頭ありませんが、このスタイルを徹底的に貫くことによって、誰にも負けない運用が出来ると信じています。

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