前回、グローバルなコミュニケーションにあたっては、自分の発言が「意見」なのか「事実」(ファクト)なのか「通説」なのかを明確にすべきと述べた。そうでなければ情報として取り扱いにくく、発言の価値が低くなってしまうからだ。そこで今回は、それぞれについて具体的な言い回しを紹介する。
米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、最新作『グローバル・モード』から抜粋してそのコツを紹介する。
グローバルでは、何でも自由にオープンに意見を出し合うのが大切だと述べましたが、気を付けるべきは、自分の発言が「意見」なのか「事実」(ファクト)なのか「通説」なのかを明らかにすることです。
映画でもドラマでも「Is it your opinion, or fact?」(→それは意見ですか、ファクトですか)というセリフがよく出てくるように、意見なのか事実なのかが明白でないと、情報としての取り扱いが難しく、発言の価値が低くなってしまうからです。
そこで今回は、意見、事実(ファクト)、通説それぞれについて、具体的な言い回しを見ていきます。
意見の述べ方
まずは、「I think」といった切り出しの動詞を使い、「そう考えている」「そう推測している」「そう願っている」などと、自分の内面から出てきたものであると明らかにすることが効果的です。
I think~ →私は~だと思います
I believe~ →私は~だと信じます
I assume~
→私は~だと推測します(事前の知識等から推定するニュアンス )
In my opinion, ~ →私は~だと思います
I personally~ →個人的には~
I’d say~ →私としては~だと思います
I must say~ →~と言わざるをえない(明らかな根拠を見てしまったので言わざるをえないというニュアンス )
事実(ファクト)の述べ方
できるだけ出典をつけることで、情報の信頼性を高めることができます。「今年のサンマはいつもより高価格になると聞いた」という「何となく客観的な情報」で言うよりも、「釧路魚市場によると……」の方が、より具体的に伝わりやすいからです。ですので、出所の権威や信ぴょう性が高ければ高いほど効果的です。
According to experts, →エキスパートによると
Napoleon said~ →ナポレオンは~と言った
アメリカの大学で論文を書くとき、徹底的に叩き込まれたのが、ソースを明らかにすること(Citation)でした。
誰が言ったのか、どこの本の何ページに書いてあったのかをもれなく明確に示すことです。盗作と疑われないためでもありますが、発言の拠り所を示すことで1つ1つのブロックの信頼性を高め、強くするからです。
低文脈社会の特徴として、「知識は成文化、公開され、誰でもアクセスできるようになる」というものもあります。誰かが調べたこと、研究したこと、考察したことは、人類の叡智として他の誰もが参照できるように成文化され、誰でもアクセスできるように公開される。それを受け継いだ次の世代が次の叡智を築き、後世のために残していく。発言の情報のソースを明らかにすること、成文化していくことは、貢献の第一歩と言えます。
もう1つ、ファクトの述べ方としては、データや数字を使う方法があります。例えば「アメリカ人は肥満が多い」というのは、単なる意見か、それこそ差別的発言ととられかねません。そこで、「米疾病対策センター(CDC)によると」とソースを明らかにし、さらに「同機関の新たな調査結果によると、米国では成人のほぼ10人に4人が、肥満度を示す体格指数(BMI)で肥満に分類されることが判明した」という数字を入れることで、より強固にすることができます。これは研究機関のリサーチ結果ですので、差別ではありません。
10人に4人、という言い方の長所は、「多い」という言い方をしていないところです。10人に4人が多いのか少ないのかは、何らかの判断基準がない限り、単なる主観になってしまうからです。その場合は、主観を交えずに生のデータだけにしておいた方が、ファクトとして有効だということです。
同様に、「ジャマイカ人は足が速い」はステレオタイプ的な発言ですが、「○%のジャマイカ人は100メートルを○秒で走れるが、これは世界で○番目に多い」というのはファクトです。低文脈の人々は、雑談レベルでもこうしたデータよく引用しています。ソースや数字を交えることで、差別的・ステレオタイプ的な発言とならずに情報交換できるわけです。
According to the studies/research, ...
→研究結果によると
The study/research shows/says/implies...
→その研究によると……と言える
The data/chart/graph shows/says/implies...
→そのデータ/チャート/グラフによると……と言える
また、自分自身から出てくるものがすべて主観というわけではありません。実際に経験したこと(anecdote)も、ファクトとして語ることができます。
From my experience, drinking lots of water helped when I had cold.
→私の経験上、風邪をひいたとき大量に水を飲むことは助けになる
According to my experience, ice breaker activities work well.
→私の経験では、アイスブレークのアクティビティはとても役立つ