正解がないとされる時代の評価の付け方
若宮:ずっと末永さんに聞いてみたかったのですが、アート思考の授業で評価ってどうやってつけているのでしょうか?
というのも、ビジネスの現場では、マネジメント側が評価するケースがほとんどです。育成という観点で言えば、先ほどの(根を育てるための)水やりとか含めて、課題設定してあげて、ストレッチ目標を与えてどうのこうのと評価する。
けれどアートシンキング的にいうと、VUCAの時代には「正解」がないわけで、誰かが目標設定するとか、誰かが評価するっていうことが時代に合わなくなってきているんじゃないか。とはいえ、学校なので成績はつけるわけですよね。そこはどうやっているのかが気になります。
美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書にベストセラーとなった『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。
末永:これは難しいところなんですけど、私は花である作品よりも、その根の部分に比重を置いた評価をしています。
その根を見る方法として、生徒にはジャーナルを書いてもらっています。スケッチブックに生徒が美術の時間中に考えていたことや試みたこととかを事細かく書いてもらうんですね。文章で書く人もいれば、スケッチとかで示す人もいたりします。そのジャーナルを作品と一緒に評価に含める。というか、ジャーナルのほうにかなり評価の比重を置いています。
とはいっても、学校では、技能面も当然評価しなければなりません。彫刻だったら彫刻刀の使いかた、絵画だった絵の具の使い方などの技能ですね。ただ、技能の評価といっても私のやり方は少し変わっています。
例えば、通常の油絵の授業であれば、油絵具とペインティングオイルを混ぜてこう使うんですよっていうことをまず教えると思います。でも、以前やった私の授業では、そういったやり方を教えずにまず「油絵実験」を生徒にさせたんですね。すると、ペインティングオイルと油絵具を混ぜるという基本的なことを教えないので(油絵具は油なので水だと解けない)、中には油絵具を水で溶いてみたりする生徒もいて、そうすると絵具がボソボソに筆にくっついて描けないんです。
また、油もなぜ特別なものを使うのかがわからない状態で使うのもつまらないので、オリーブオイルとかベビーオイルとか身近なオイルを色々用意したんです。するとオリーブオイルとかベビーオイルとかで書いてみる生徒が出てくる。すると一週間後二週間後も「まだベトベトしてる」とかなるんです。そこからじゃあなんでオリーブオイルだと乾かなくてで、ペインティングオイルだと乾くんだろうと生徒が興味をもったら、自分で調べ学習をして探究していくといった具合に技能の面でも興味のタネから探究の根を大事にしています。
おそらく油絵具の使い方のようなことは、私が一方的に教えても「油絵を描く」ことにしか使えないじゃないですか。でも、こうやって色々実験をしたり調査したりと探究してみることは、他の分野でも、大人になってからも使えることだと思っています。
若宮:いやー面白いですね!
末永:授業しててもすごく面白いですよ。
若宮:本当かどうかわかんないですけど、メディアアーティストの藤幡正樹さんに教えてもらった話で、好きなレオナルド・ダ・ヴィンチの話があります。記録に「ダ・ヴィンチはモナリザの絵をいつも持って歩いていた」っていう一説があるんですが、これは肌身はなさず、っていう比喩ではなく本当に手に持って歩いていたんじゃないか、と。油絵のほぼ初めてぐらいの世代で実験的に油絵の具をつかっていたのがダ・ヴィンチなんで、油絵は圧倒的に乾きづらいから、立てかけたら全部バーって流れてしまう。だからこう水平にして持って歩いてたたんじゃないかという話なんですけど、それを思い出しました。
アートは技術も含めて試行錯誤で探求していくものなので、こうやって授業でも技術自体を探求して揉んでいくっていうのはすごい面白い。いや、本当に即娘に受けさせたい(笑)。いやでも、こうやって技術自体を探求して揉んでいくっていうのはなんかすごい面白い。いや、本当に面白いなと思って、即娘に受けさせたい(笑)
末永:お待ちしています(笑)