「こんなふうになったらいいな」を
実際にやってみる

 別の言い方をすれば、もっと仕事を楽しめばいいのです。

 会社員とは、基本的には、会社に与えられた仕事を、きちんとやり遂げることで給料をもらうものかもしれません。しかし、単に、与られた仕事をこなすだけでは面白くありません。たかだか1㎡のデスクにかじりついて、命じられた仕事をこなしているだけでは、人生つまらないですよ。会社に貢献するという前提のもと、自分が「面白い」と思うことをやってみるのが正解なのです。

 そもそも、この世の中には、「完成された仕事」というものはありません

 どんなに完成されたように見える業務システムが構築されている職場であっても、必ず、改善できること、新しくできることはあります。実際、皆さんも、「こんなふうになったらいいな」「もっとこんなふうにすればいいのに」と思ったことがあるはずです。その思いこそが、「理想」「ビジョン」なのです。

 その思いを我慢して、命じられたことをやり続けるよりも、改善策を上司に提言して、実際に変える努力をしたほうが楽しいに決まっています。しかも、それが魅力的な提案であれば、周囲の人たちも、「それいいね」と共感してくれて、力を貸してくれるに違いありません。そして、周囲の人たちと力を合わせて、「理想」「ビジョン」を実現するプロセスこそが、仕事の醍醐味であり、面白さなのです。

仲間と「新しい価値」を
生み出す楽しさを実感する

 私が、はじめてその楽しさを知ったのは入社3年目のことです。

 タイ・ブリヂストンの販売担当だったのですが、当時、販売現場では、販売売掛金の回収が滞るという問題が持ち上がっていました。そこで、上司から、タイ人営業マンをリードしながら不良債権の回収をするように命じられたのです。

 不良債権の回収は、なかなか手強い仕事です。相手も事情があって売掛金の支払いができないのですから、なんだかんだと理由をつけて、ふにゃふにゃとかわしてくる。一筋縄ではいかないわけです。しかし、そんな相手を押したり引いたりしながら、不良債権を回収するコツをつかめば、それなりの成果が出るようになっていきました。

 ところが、成果に反比例するかのように、タイ人営業マンたちの士気は下がる一方でした。というのは、不良債権の回収という仕事は、新しい価値を生み出す仕事ではないからです。ワクワクするものがないのです。私自身も、正直、つまらなかった。

 そして、「もっと前向きな仕事がしたい」「みんなともっと楽しく働きたい」と思った私は、「不良債権の回収だけではなく、新規顧客開拓もやらないか?」とメンバーに相談。当時、ブリヂストンは、タイ市場で、ファイアストンやグッドイヤーというグローバル・ジャイアントと激烈な競争を繰り広げていましたから、その戦いに貢献するのは、会社の「ビジョン」にも完璧に合致すると考えたのです。

 私の提案を聞いて、みんなは「面白いじゃないか!」と盛り上がりました。そして、みんなで「ターゲット顧客リスト」や「攻略作戦」をまとめ上げて、上司に提言。当初、上司は「回収だけでもたいへんなのに、本当にできるのか?」と驚いていましたが、会社の戦略に貢献する提案だから却下する理由もない。「前向きでよろしい」と、すぐにOKを出してくれたのです。

 これで、私のチームは一気に活気づきました。仕事量は2~3倍に膨れ上がりましたから、めちゃくちゃに忙しくなりましたが、これは全然苦にならない。

 当時のタイはモータリゼーションがまだ初期段階で、優良な取引先は、ほとんどがすでにファイアストンと長年取引のあるロイヤル・カスタマーでしたが、それでも、みんなで選んだ「ターゲット」に、練りに練った「攻略作戦」を片っ端から仕掛けていったらガンガン結果が出ました。こうなると、仕事は楽しくてならない。タイ人営業マンたちと、実に充実したチームワークを楽しむことができたのです。