会社の「天井」に穴を開ける

 この経験で、私は「開眼」しました。

 与えられた仕事をこなすだけでは面白くない。自らが思い描いた「理想」や「ビジョン」を実現しようとチャレンジするからこそ、仕事は面白くなるのです。

 何かを生み出すこと、新しい価値を生み出すこと、想像するだけでもワクワクするようなこと……。そんな仕事には仲間も「共感」を寄せてくれる。そして、みんなで力を合わせて課題に取り組んでいくプロセスこそが面白いのです。

 だから、私は、その後、どこに配属になっても、どんな職位についても、「こんなふうになったらいいな」という「理想」や「ビジョン」を思い描いて、それを実現することに喜びを感じてきました。

 いわば、会社の既存のシステムにはない、イレギュラーなことをするわけですから、なかには、「ハードルが高い」と感じる方もいるかもしれませんが、そんなことは全くありません。

 なぜなら、会社というものは、実に“よくできた場所”で、誤解を恐れずに言えば、上司にハンコさえ押してもらえれば、その時点で「無罪確定」だからです。もしもチャレンジに失敗しても、それはハンコを押した上司の責任。適時的確に上司に報告・連絡・相談しながら、精一杯努力を尽くしたのならば、提案した本人の責任が問われることはないのです。

 上司を説得するのも、決して難しいことではありません。経営陣の「ビジョン」や「戦略」に合致したアイデアであれば、却下する理由がないからです。私は、これを「会社の天井に穴を開ける」と言っていましたが、「会社の天井」などたいしたものではありません。どんどん「穴」を開けて、仕事を面白くしたほうがいいのです。

イレギュラーな局面で
求められるのが「参謀」である

 このような経験を積んでおくことには、大きく二つの意味があります。

 まず第一に、若いころから、自らイレギュラーなことを生み出すことで、参謀に求められる重要な能力が、自然と磨かれるということがあります。

 私が社長だったときに、「誰かの意見を聞いてみたい」と思うのは、イレギュラーなことが起きたときでした。これは当たり前のことで、日常的に起きる「通常の課題」については、担当部門や担当者と話し合えば「答え」は出ますから、参謀の「知恵」など特段必要になりません。

 しかし、イレギュラーなことが起きたときには、通常業務のマニュアルに従って処理している人々だけでは、対応不可能になることがあります。このようなときに、頼りになる「見識」を与えてくれる人物こそが、参謀なのです。

 だから、自らイレギュラーなことを生み出してきた人は、参謀として貴重な存在になる可能性を秘めているわけです。

 実際、イレギュラーなことをやろうとすれば、社内のさまざまな部門に影響を与えることになるため、通常とは違う社内コミュニケーションをとりながら、合意を形成していく必要があります。思わぬ反発を受けることもありますから、その「壁」を超えるために、知恵を絞る必要に迫られることもあります。そのようなプロセスで自然と培われる「知見」「見識」は、イレギュラーなことに対応するうえで、非常に貴重な示唆を与えてくれるものなのです。

 そして第二に、「理想」や「ビジョン」を血肉化するという意味があります。

 まず、イレギュラーな提案を上司に認めてもらうためには、それが、会社の「ビジョン」や「戦略」に合致していることを明確に伝えられなければなりません。

 そのためには、会社の「ビジョン」や「戦略」を、深く理解しておかなければなりませんし、それと自分の目の前の仕事が有機的につながっていることを実感できていなければなりません。このようなプロセスを何度も経験することによってこそ、会社の「ビジョン」「戦略」を、自分のものとして血肉化することができるのです。