「問題」が設定できれば、
半分は「解決」したようなもの

 ここで重要なのは、リーダーが「原理原則」から逸脱しようとしているときに、それを指摘するだけでは足りないということです。先ほどのケースもそうですが、リーダーが「原理原則」から逸脱するには、必ず、しかるべき理由があるからです。

 あのとき、社長は、取締役会を開くことによって、情報漏洩することのリスクを強く懸念しましたが、それは、経営者としてはまっとうな問題意識でした。だから、単に、「取締役会は開くべき」と進言するだけでは、社長にすれば、簡単に受け入れることはできません。「お前に言われなくても、そんなことはわかっている」と反発されるのも当然なわけです。

 しかし、それで引き下がっているようでは、参謀は務まりません

 とはいえ、押し問答を繰り返しても意味がありませんし、意思決定権者である社長に勝てるはずもない。だから、参謀に必要なのはアイデアを出すことです。「原理原則」から逸脱することなく、社長の懸念点をもクリアするアイデアを考え出す。そして、社長が安心して「原理原則」を遵守することができるようにする。これができたときにはじめて、参謀としての職責を果たしたことになるのです。

 そして、そのようなアイデアを考え出すのに、特段の才能は必要ありません。ごくごく常識的な判断力さえあれば、誰にでもできることです。むしろ、重要なのは「制約条件」を明確にすること、言い換えれば、正しく問題を設定することなのです。

「問題をきちんと述べられれば、半分は解決したようなものだ」

 これは、アメリカの発明家であるチャールズ・ケタリングの言葉ですが、まさにその通り。絶対に逸脱してはならない「原理原則」という制約を受け入れることによって、問題を明確に設定することさえできれば、なんらかの解決策は必ず見えてくる。これは、私の約40年間のビジネス経験から断言できることなのです。

原理原則のためなら、
「短期的な損失」は受け入れる

 言い換えれば、ビジネスにおいて「原理原則」を貫徹することは、絶対に可能だということです。

 場合によっては、「原理原則」を貫徹することによって、短期的な損失を覚悟しなければならないこともあるかもしれませんが、そのことによってこそ、企業や組織を破綻に追い込むような事態を避けることができます。いや、そのことによってこそ、企業や組織を繁栄に導くことができると言うべきでしょう。

 たとえば、私は本社社長になったときに、「安全第一」というからには、利益よりも、生産性よりも、何よりも「安全を第一に優先する」と全社に明言しました。そして、実際に、ある工場で設備が故障し、生産を止めないためには、標準作業外の危険を伴う人力作業をせざるをえない事態が生じたことがあるのですが、そのときにも、即座に生産ストップを指示しました。

 生産をストップすればほかの工程にも影響が出るため、最悪の場合には、億単位の損失が発生しかねない状況でしたが、「原理原則」を踏みにじることで組織に与える悪影響のほうがよほど怖い。組織全体で「安全第一」という「原理原則」が根っこから揺らぎ始め、結果として事故が多発しかねないからです。だから、私は、「安全確保のためなら、損失額はいくらになっても全く気にしなくていい」と明言したのです。