ティッピングポイントがプラットフォーム型の事業が
PMFするための必要条件

 また、「ネットワーク効果型」のプラットフォームにおいても同様のジレンマがある。誰も、最初の一人目のユーザーになりたがらないのだ。例えば、斬新なメッセージアプリを開発したとしても、送る相手が誰もいなければ、そのアプリの価値はゼロだろう。

供給者サイドと需要者サイド双方の欲求を満たすのは、2つの会社を同時に起業するようなものだ」と表現されるくらいの難度になる。

 その難度が生み出す模倣の困難性といったんスケールできた後のネットワーク効果も相まってPMFを達成できたら、高いバリュエーションがつくのだ(KPMGによるとプラットフォーム型は、パイプライン型に比べて難度が8倍の時価総額がつくと言われている)。

 ここでティッピングポイントという概念を紹介したい。

 ティッピングポイントとは、プラットフォーム型の事業が、PMFするための必要条件となる概念だ。下図表の横軸の「取引量」に注目いただきたい。ティッピングポイントを超えると、プラットフォーム上のプレーヤーのマッチング率が劇的に高まり、それ以降は、特にプロモーションに注力しなくても、自然に取引量が増えていく「閾値」になる。

 例えば、トヨタが100億円出資したカーシェアのGetaround(ゲットアラウンド)がある。ニューヨークの地図を見ると、セントラルパークで車を借りようと思っても半径2マイル以内に2台しかない。ニューヨークでは生産者(車登録者)の数が少なくマッチングしない。ティッピングポイントを超えていないため、ニューヨークではPMFしないことになる。

 一方、サンフランシスコでは状況がガラリと変わる。例えば、ユニオンスクエアの半径2マイル以内に100台あればマッチング率は非常に高い。ティッピングポイント超えしていると考えられるためPMFしていることになる。検索結果のマッチング率が高い(下図表)。

 プラットフォーム型の事業のPMFにおいては、このティッピングポイント超えが非常に重要な要因となる。

 上記で見てきたように、プラットフォーム型ビジネスのPMFの難度はパイプライン型に比べて非常に高くなっている(下図表のようにプラットフォーム型事業には、それぞれの成長フェーズで乗り越えなければならない課題が山積している)。

 しかし、スタートアップがスケールするには、プラットフォームの要素を取り込むことが必要になってくる。その具体的な戦略については、この後事例を用いて解説したい。