日本は第3次産業革命といえる、経済社会のデジタル化、グリーン化で世界の中で取り残されている。長期低迷からの魔法のつえはないが、デジタル化、グリーン化に政府、企業が投資をしていくことで、新たな需要を生み出すことはできるはずだ。それは自然利子率や潜在成長率の回復にも寄与する。(BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎)
グリーン・デジタル社会へと
かじを切ることは必然
菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに脱炭素化(カーボン・ニュートラル)を達成することを表明した。このタイミングでの方針転換にはいくつかの理由があるが、米国の大統領選挙でバイデン民主党候補が勝利し、脱炭素化に日本だけが取り残されることを懸念したというのが大きいだろう。
2050年までの脱炭素化はチャレンジングな目標であり、具体策の策定もこれからとなるのだろうが、自立分散型のエネルギー・システムの構築は、日本経済の成長の切り札となり得る。
菅政権は経済社会のデジタル化を最優先に掲げるが、グリーン化と併せることで、脱物質化社会における豊かさの享受も可能となる。本稿では、グリーン・デジタル社会にかじを切ることの必然性とその意義を論じる。
まず、グリーン政策にかじを切ることの必然性である。アントロポセン(人新世)に入り、人類の経済活動が地球規模の気候条件に多大な影響をもたらすだけでなく、気候の大変動が人類の活動に大きな制約や悪影響をもたらし始めた。
たとえば、CO2(二酸化炭素)排出量の増大に伴う気温の上昇によって、大気中の水蒸気量が大きく増え、それが異常気象とともに、激烈な風水害につながっている。事実、日本や中国をはじめ世界各地で、毎年のように異常気象による風水害が生産活動に悪影響を及ぼすようになった。もはや遠い未来の懸念ではなく、現在進行形の危機となっている。