独学力#2
Photo by Satoru Oka/REAL

「勉強」は嫌い、暗記も嫌い。好きなことだけ追求してきた――。特集『あなたの人生を変える!「独学力」』(全10回)の#2では、2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏に、これまでの学びの履歴を振り返ってもらおう。

「週刊ダイヤモンド」2017年10月7日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

好きなことをもっと知りたい
本で広がった研究の原動力

「勉強」という言葉は嫌いなんです。何か、怖いお母さんが椅子の後ろで立っているようなイメージでしょう。

 そもそも「勉」という漢字は、「無理して生み出す」という意味を持つそうです。出産するときの、産みの苦しみを表すと。それと「強」、つまりは「産みの苦しみを強いる」というのはちょっとねえ。

 片や英語の「STUDY」というのはギリシャ語の「ストゥディオ」というのが語源で、こちらは「知る楽しみ」という意味なんです。それまで知らなかったことを知るのは、わくわくしますよね。学ぶことは「勉強」よりも「STUDY」であるべきだと思う。

 私のおやじは、戦前は家具職人、戦後は砂糖問屋をやっていました。子どもの勉強を見たり、心配したりすることはなかった。

 しかし、あるとき、小学校5年生ぐらいのときかな。わが子のノートを見てみたら、真っさらだった。それで保護者会の折、先生のところに「たまには宿題を出してもらわんと困ります」とねじ込みに行った。そうしたら「毎日出しているけどやってこないのはお宅のお子さんだけです」と。その晩は絞られてねえ(笑)。

 そのおやじは、本当は電気技師になりたかった。それで自分で勉強したけれども、サイン、コサインでつまずいて、夢は諦めたらしい。ただし、いろんな科学や技術に興味があり、雑学的な知識を蓄えていて、それをよく私に披露してくれていた。

 思い出しますね。銭湯への行き帰りの夕暮れの道。2人で一緒に歩きながら、地球と太陽、月の位置関係を説明した後に「では、なぜ、月食というのは毎月、起こらないと思う?」と尋ねてくる。「分からない」と答えると、「それは月と地球の軌道面が5度ほどずれているからさ」と自慢げに解説してくれたものです。私にとっては、これが科学への入り口だった。

 学校の宿題や予習復習など、相変わらず全くしない子どもでしたが、おやじ仕込みの雑学のせいか、自分は「数学や理科が得意」という思いが強くなっていきました。

 実際、数学や理科は、授業で先生の話を聞いていれば分かる。だけど漢字とかは全く駄目。ちゃんと復習しないと覚えられないわけだからね。現に、漢字テストはほぼ0点だった。

 片や数学や理科の方は、得意だと思うと、もっと深く、広く知りたくなる。近くの市立図書館で本を探し、読みまくりました。学び始めるとさらに難しい物理や数学の本を手に取ってみたくなる。「好きなこと」「興味のあること」を「知る楽しみ」が、本を通してどんどん広がっていったわけです。