立て替え払い型は、サービス事業者が前払い分の現金を本来の給与支払い日まで立て替えるので、会社のキャッシュフローを安定させることができる。従業員が前払い給与を受け取る際の手数料は4〜6%程度が相場だ。

 このスキームは、労働基準法に定められた賃金直接払いの原則などに違反するとの指摘もあったが、厚生労働省は19年3月に適法性を認定。これを受けてマネーコミュニケーションズは、立て替え払い型サービスの導入検討に着手していた。

 今回、マネーコミュニケーションズが新たに設定する手数料率は1.5%だ。先行するスタートアップ勢の4〜6%程度に比べて圧倒的に安い。それを可能としたのは、伊藤忠の資金調達力に加え、19年に連結子会社化した信用リスク保証会社の機能を活用し、サービス提供の原価を大幅に抑えることができたからだ。

 ただし手数料を下げれば収益性は悪化する。それでも業界最低水準の手数料設定に踏み切るのは、その先のビジネスを見据えているからに他ならない。

 伊藤忠は近年、個人向けのリテール金融を強化している。金融事業会社のポケットカードを中核に、後払い決済のPaidy(ペイディ)を持ち分法適用会社にするなどフィンテックベンチャーへの出資を加速させてきた。決済データから個人の消費行動などを把握し、既存商品の提案や新サービスの開発につなげる狙いがある。

 給与前払いサービスもその戦略の一翼を担う。最大の目的は、若年層を中心とした顧客基盤の拡充だ。約5万人のサービス対象者を1年後に30万人、3年後に100万人に拡大させるという野心的な目標を伊藤忠は掲げる。

 コロナ禍で雇用情勢が悪化する中、非正規雇用の若年層を中心に給与前払いのニーズは今後も拡大すると見込まれる。このタイミングで伊藤忠は「大勝負」(同社社員)を仕掛け、価格のディスラプター(破壊者)としての市場席巻を目指す。